第11話 side G

「……次のニュースです。東京都内のアパートの一室でこの部屋に住む30代とみられる男性が死亡しているのが見つかりました。近隣の住民によれば、最近姿はみていなかったとのことであり、また、男性が勤めていた会社では3ヶ月ほど前から無断欠勤が続いていたとのことです。警察は事件と事故の両面から捜査をしておりますが、詳しい死因はまだ分かっておりません」


 一人の人間の死をニュースキャスターが淡々と告げる。


「あ~あ、また上手くいかなかったな~。今回のは結構派手にやらかしてくれたわ」

 事務椅子に座ったまま背を反らして、伸びをする。

 私は天使。厳密には違うかもしれないけれど、この表現が一番近いと思う。つまりは、神様の使いなわけで、労働者にすぎない。働いている環境というのは、地上のオフィスとあまり変わらなかったりする。


 しかし、非効率的な方法だと思う。いくら神様が忙しいからって神様の代行を人間にやらせるっていうのはどうなのかと思う。それでも、こんくらいしか方法はないのかなとも思う。

 任せる人間は、神様に恨みを持った人間だけ。

 なんていうか、神様の代行をさせようっていうのに、そういう人間を選ぶのは、いくつか理由あって、まず、神様を恨むぐらいしかできない暇な人だからというのが一つ。神様に感謝している人に任せたら、バイトの失敗で恨みに変わるかもしれないからというのが一つ。

 で、最後の理由は、二番目の理由の裏返しかもしれないが、恨んでいる人間がさらに恨んでも別に問題ないからというものだ。


 それに神様代行させた場合のこちら側の損失って大したことないんだよね。神様の手が回らなくなって、大きな損失が出るって結構な頻度であるので、失敗してもともとなところがある。神様もそんなに世界創らなくてもと思うが、神様が創っているのではなくて、悪魔側、つまり、サタン(これが神様の右腕のルシフェル様だったんだけど)からの嫌がらせなんだって。ひどい嫌がらせもあったものね。

 世界がみんな同じに創られているのも、そのせい。粗製乱造ってやつ。


 それに、感謝からのピンハネ率も大概ひどい。大体7割~8割持っていくし。

 一度、上司に聞いたら、システム維持費だのなんだので、良心的なんだってさ。私たちの給料もそこから出ているわけだし。


 そんなこんなで失敗が出ても全体的にはあまり問題ではないし、10人中1人でも継続してくれる人がいれば、十分すぎるほどらしい。

 ただ、勧誘した人が失敗するのは私の営業(?)成績にはダイレクトに響くから勘弁して欲しい。


 恨んでいる人を見つけては勧誘するのだが、その際の勧誘の言葉も厳しく制限されているっているのもつらい。営業成績を上げるためには説明を詳しくしたらいいのだが、質問には回答してもいいが、こちらからの説明は最小限。補足説明もわずかなら許されるが、それ以上は、逆に成績から引かれる。

 ペットの例えもギリギリのラインらしい。

 こんなことになっているのは、キリがなくなってしまうかららしい。もともと、選ばれる人間というのは怠惰な人が多い。そういう人に親切に教えようとしたことがあるが、手取り足取り教えないといけなくなって、全体の効率が落ちてしまったんだとか。

 それで、世界が創られるペースに追いつかなくて、損失がいっぱい出たとか。


 それで、それなら、いっそのこと下手な鉄砲数打ちゃ当たる方式に変えた方がいいってことで、説明はほとんどしないって方針になったって上司が言っていた。

 

「いい例えだとおもったんだけどな~理解してもらえないってありえないわ~邪魔になったからってペットを放り出さないよねって思ってた私が馬鹿だったのかな」


 一度、始めたら投げ出せないって言ってるのに、投げ出す人の多いこと多いこと。第一、世界なんだから命があるってのに、それも忘れてしまうってのもひどい話だよね。

 このバイト、投げ出したら死んじゃうけど、それは自業自得だと思うんだよね。

 

 そんなこと聞いてないって言う人いるけど、ちゃんと投げ出すことはできないって伝えてるし、投げ出したらどうなるんだ?って聞かない方が悪い。

 ちょっとは心が痛むけどね。その分、世界を投げ出した人間よりはましかなと思う。


「今の成績は、成功2人か、このままじゃ、ちょっとまずいな」

 勧誘した人間の人数なんて数え切れない。現在、監視している人間はそれなりにいるけど、成功といえるのはこれだけだ。


 「とりあえず、また勧誘に行くとしますか。神様を恨んでいる人間って相当いるから」

 

 私は独り言を言って、席を立ち、地上に向かう。

 あの一言を言うためだ。


「あなた、神様になりませんか?」



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バイトで神様? 水瀬 由良 @styraco

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