第136話 偽装自決弾 其ノ参

「……な、なんなんだ……」


 さすがの私も動揺してしまった。いきなりの拳銃の暴発……いや、それよりも、直前までの塩屋の話だ。


 一体コイツは何者なのだ? それに、どうして渡良瀬さんの話が出てくる?


 そもそも、渡良瀬さんは死んだはずだ……しかし、あの口ぶりだと……


「だが……現にコイツは……」


 私はそう思って血だらけの男の首筋に指先を当てる。


 ……間違いなく脈がない。すでに死亡している。そもそも、これだけの出血量だ。死んでいないはずがない。


「……とりあえず警察を――」


 そこまで考えて私の悪い癖が顔を出した。


 塩屋は……五分待てと言っていた。五分後に詳しい話をする、と。


「……いやいや、馬鹿げている。そんな……」


 しかし、どうにも気になってしまう。と、私はあることを思い出し、塩屋が持っていた拳銃を恐る恐る手に取る。


 血まみれになっている拳銃であるが……確かにかつて渡良瀬さんが持っていたものと同じだ。


 拳銃を手にとって見てみる……と、拳銃の銃把の部分に小さくではあるが文字が彫り込んである。


「……『健ヤカナル国家ノタメニ』」


 この文字が刻んであるということは……間違いなくこれは、国健部隊の拳銃だ。そうなると……この拳銃自体も不可思議な兵器であった可能性がある。


 もしそうならば、渡良瀬さんのあの暴発事故も今考えてみれば……


「……最初から、分かっていたってことか?」


「ああ、そうだよ、若旦那」


 と、店の外から声が聞こえてきた。私は慌てて杖をとって外に出る。


 あの声……聞き覚えのある声だ。そして、間違えるはずがない。


「渡良瀬さん!?」


 私は店先に飛び出したが……誰もいなかった。辺りを見回しても、誰もいない。


「……気のせい……か?」


 間違いなく声は聞こえた気がしたが……私は仕方なく、店の奥の方に戻っていく。


「フフッ。やっぱり好奇心には勝てなかったようですな。しかし、それでこそ、あの人が見込んだ人だ。むしろ、それでいい」


 聞こえてきた声に、思わず恐怖してしまう。その声は……間違いなく、先程、拳銃が暴発して死んだはずの男の声だったからだ。


「……アンタ、どうして……」


 今度は私が慌てて居間に戻ると……塩屋がまるで何事もなかったかのようにニコニコして、私のことを見ていた。


「さて……約束通り、詳しいお話を致しましょうかね?」

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