第117話 嘘付喪神 其ノ弐
「……ここまでくれば、安全か」
私は慌ててガラス箱を持ったままで家の裏手までやってきてしまった。恐る恐るガラス箱の中を見てみる。
「た、たわけ! 危ないではないか!」
……やはり、夢ではなかった。人形は喋っている。というか、怒っている。
「……すまない。さすがに妻に人形喋っている危ない男と思われるわけにはいかなかったのでな」
「フンッ! 現に今は喋っているではないか……とにかく! 妾は姫人形じゃ。もうすこし丁重に扱え」
「あ、ああ……それで……どうして、君は喋っているんだ?」
私はそもそも根本的な質問をしてしまった。そう言われて、人形はキョトンとした顔をしている。
「なぜって……決まっておるじゃろう。知らんのか? 付喪神じゃよ、妾は」
「付喪神……ああ、あれね……」
「あれ……なんじゃ、お主。まさか……妾以外に付喪神を知っておるのか?」
少し驚いた顔でそういう姫人形。付喪神……とは少し違うかもしれないが、招き猫が化け猫になった麻子は付喪神のような類の存在だろう。
最も、あれは妖怪だが……
「まぁ……似たような存在は知っている」
「なんじゃ、似たような存在とは……良いか? 妾は付喪神といってもただの付喪神ではない。高貴な付喪神なのじゃ」
得意そうな顔でそう言う付喪神。私は思わず頭を捻ってしまう。
「高貴な……付喪神?」
「そうじゃ。妾はもともと、とある武将の娘に似せて作られた人形じゃった。しかし、時は戦国の世……武将は討ち死にし、娘も他国へ嫁ぐことに……そんな中でも妾だけはその娘と一緒じゃった……そうして妾は人から人、国から国へと渡り歩く存在に……な? 高貴じゃろ?」
それが高貴なのかどうかはわからないが……とりあえず姫人形は自分に歴史があることを主張したいようだった。
それにしては、私に人形を売りつけてきた主は、さも、さっさと売り払ってしまいたそうな顔だったが……
「そうか……だが、なぜ、そんな高貴な付喪神が、私の店などに?」
そう言うと、姫人形は一瞬戸惑ったような顔をしたが、すぐに得意そうな顔で私を見る。
「そ……それは……たまたまじゃ。今回妾を手に入れた主が不甲斐なかっただけじゃ。とにかく! 妾は高貴な存在。お主のような身分の低いものの店などにはいたくないのじゃ!」
「そう言われても……うちは古道具屋だから、誰かに買ってもらわないとなぁ……」
「ならば、努力せよ! 妾が高貴な主に買われるように、お主が努力するのじゃ! 分かったら、店の中で最も目立つ場所に妾を置くのじゃ!」
高圧的な態度でそういう姫人形。私は渋々ガラス箱に入った彼女を持ったまま店先に戻る。
それにしても……どうにもひっかかる。そんな歴史のある人形が私の店に来るというのもそうだが、ガラスケースの中の彼女はどう見ても、綺麗すぎるのだ。
それこそ、最近作られたのかのように……
「ほら! 店主よ! 何をしておる! さっさとせぬか!」
「……はいはい。お姫様」
どうにも私は仕方なく「姫様」に言われるままに私は店先で最も目立つ場所に彼女を置くことにしたのだった。
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