第118話 嘘付喪神 其ノ参
それから数日、実際姫人形は店頭の一番目立つ場所に置いておいた。
実際、姫人形を見て、やってきた何人かの客はそれを珍しそうに見ていたが……なぜかしばらくすると興味を失ってしまったようだった。
なぜだろうか……それこそ、皆途中までは興味津々なのだが、まるで何かに気づいたかのように興味を失ってしまうのである。
一体これはどういうことか……私がそんな事を考えていたある日のことだった。
「……旦那。その……ちょっといい?」
勘定場に座っていると、佳乃が私に話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「あー……ちょっと聞きにくいんだけど……どうして、そのお人形、そんなに目立つ場所に置いてあるの?」
なぜか少し心配そうな顔で佳乃は私にそう言った。
「え……なぜそんなことを聞くんだ?」
「いや、だって……その……ちょっと言いにくいんだけど……変な話を聞いたんだよね」
「変な……話?」
それから少し苦笑いしながら佳乃は私の方を見る。
「……その……ウチの店が……紛い物を売っている、って話……」
「何? 紛い物?」
私は思わず驚いてしまった。紛い物……確かにウチの店が売っているものは変なものが多いが、偽物や紛い物なんかは売っていない。それは私が自信を持って言い切れる。
「……あー……アタシも少し聞いただけなんだけどね……少し驚いちゃったから……ま、まぁ、そんなのデタラメだよね?」
不安そうにそういう佳乃。私は小さくため息を付いた。
「……ああ。少なくとも私は紛い物を売っている気はない」
「そ、そうだよね……あはは! ごめんね、変なこと言っちゃって……アタシ、買い物行ってくる!」
少し気まずかったのか、佳乃はそのまま急いで店から出ていってしまった。すでに今日の分の買い物は済ませているはず……完全に佳乃に気まずい思いをさせてしまった。
私は少し考える……ウチの店が紛い物を売っているという噂、そして、なぜか急に興味を失って帰っていってしまう客達……
それらを踏まえて考えると……その原因は……
私はチラリと姫人形が置いてある方を見てみる。
「……なんじゃ? お主、なにか用があるのか?」
不思議そうな顔でさも当然のように姫人形は私に向かってそう言った。
それらの原因は……間違いなくこの人形だということを私は理解した。しかし、それを解決するにはどうすれば……
「おや、今日は旦那様お一人ですか?」
と、そこへ店の中に一匹の白猫……これまた、猫のくせに当然のようにしゃべる不思議な存在が入ってくる。
「……麻子」
それは、元招き猫の化け猫……麻子なのであった。
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