第98話 不死者の聖石 其ノ参
それから佳乃と私は、そのままホテルの中の部屋に案内されていた。
ホテルの中はそれこそ、今も現役でホテルとして使われているのではないかというくらいに綺麗な状態だった。
しかし、広いホテルのどこにも、ニコニコ笑顔の信者たちがいて……落ち着ける雰囲気ではなかった。
「さて。では、落着いたら呼びに来る。ここで待て」
そういって、伊勢崎と瀬葉は行ってしまった。連れてきておいてなんとも雑な扱いである。
「旦那。ホントにここ……その宗教団体、なの? ただのホテルじゃない?」
「……君ねぇ。見てわからないかい? どう考えてもおかしいだろう?」
私がそう言っても佳乃はあまり納得できないようだった。それにしても……問題は教祖の平野だ。
一見すると普通の男だった。だとすると、伊勢崎が言っていたのは……平野が首から下げていたあの宝石のようなもののことだろうか。
確かになんとなく変な感じというか……不思議な感じのする物品だった。
それになにより、平野自身には何も感じなかったのだが、あの宝石にはなんというか邪悪な感じというか……そんな気配を感じたのである。
「それよりさ、ここって、温泉とかないのかな? ホテルだし、ありそうじゃない?」
「……君ねぇ」
呆れて私は何も言えなかった。そして、丁度その時だった。ドアがノックされる。
佳乃がドアを開けると、そこには伊勢崎と瀬葉……そして、平野が立っていた。
「え……あ、ああ。どうも」
「古島さん。奥様。どうも。さっそくですが、私自身のお話をさせていただいてもよろしいですか?」
私は思わず伊勢崎と瀬葉を見る。2人は笑顔で頷いている……何か変だ。
「え、ええ……どうぞ」
そう言うと、平野は部屋に入ってきた。
「……私は飛行機乗りでした。何度も死線をくぐってきたし、実際、墜落したことも一度や二度じゃない……ただし、神に護られていました」
「……神に?」
私が思わず怪訝そうな顔をすると、平野は苦笑いする。
「ええ。分かっています。神が実在するならば、我が国は勝っていますよ。あくまで例えです。とにかく、私は決して死なないのです」
「……そう、なんですか?」
私が明らかに信じていない様子だということを理解すると、なぜか平野は瀬葉に合図する。
瀬葉は……懐から拳銃を取り出した。
「では、証明いたしましょう」
平野がそう言った瞬間だった。瀬葉は躊躇うこと無く引き金を引いたかと思うと……そのまま平野に向けて発砲したのだった。
「……え?」
銃弾は平野の頭部に直撃し、平野はおびただしく、出血しながら部屋に倒れる。私も佳乃もあまりのことに驚いてしまって、何もできなかった。
「せ……瀬葉さん!? い、一体何を!?」
私は思わず瀬葉に詰め寄るが、瀬葉は笑っているだけである。
「大丈夫です。教祖様は死にません」
「は? 教祖様って……アンタ、一体何を……」
「フフッ。ええ、そのとおりです。心配しないで下さい。古島さん」
私は振り返る。すると、そこには……
「なっ……なんで……」
私が振り返ると、そこには……血液こそ付着していたが、まるで何事もなかったかのように笑顔で立っている平野がいたのだった。
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