第99話 不死者の聖石 其ノ肆

「驚きましたかな? これが神に護られるということです」


 平野は得意気にそう言う。私はさすがに驚いていたが……すぐに宝石の方を見る。


 どう考えても……宝石の方にカラクリがあるだろう。伊勢崎が言っていたことが確かならば絶対にそうだ。


「さて……古島さん。私自身の話をしたところで……今度はアナタの話をしていただきたい」


「え? 私の……話?」


 意味がわからず私は思わず戸惑ってしまう。平野は相変わらずの不気味な笑顔で私を見ている。


「ええ。アナタ……骨董品をかなりの数収集しているそうで。その中には不思議な効力を持ったものがかなりあるそうですが……本当ですか?」


「は? な、なんでそんなことを……はっ!?」


 私は伊勢崎の方を見る。見ると、伊勢崎が見たことのないような笑顔で私を見ている。


「若旦那。今の見ただろう? 教祖様に君の持っている不思議な骨董品を差し出す……それは正しいことだと、私は思うんだ」


「なっ……ば、馬鹿か君は!? 大体君は帝財局が紛失したものを回収するんだろう? それなのに……」


「ああ。それか。既に回収している帝財局の品物も全て教祖様に捧げるつもりだ。だから、君も店の物を全て供出しろ。それが正しいことなんだ」


 笑顔のままで伊勢崎はそう言っている。私は平野を見る。


「……ほぉ。そうか。アンタさっき、俺が生き返った瞬間は見てなかったんだな。だから洗脳されていないんだな」


 驚いた顔でそういう平野は……先程までとは違い、下卑た視線で私を見ていた。


「洗脳? アンタ……そんなことができるのか?」


 私がそう言うと平野は得意げな顔でそう言う。そして、宝石を手にして邪悪な笑みを浮かべる。


「アンタの見ていたとおりだよ! これだよ! この宝石はウチの家宝でね。俺が戦争に行く時にもたせてもらったんだが……これがとんでもないものだった。これを持っていれば飛行機で落ちても死なないどころか、機関銃で撃たれて俺が生き返った瞬間を見た奴らは、俺の思う通りに動くんだよ! あははは! 面白かったぜ! 戦場で敵と味方を俺が思い通りに動かして殺し合わせるのはよぉ!」


 ……なるほど。やはり宝石は私がよく取り扱う異様な力を持った物品のようだ。


 そして、伊勢崎と瀬葉は……宝石を回収しようとしてヤツの生き返った瞬間を見た結果、洗脳されてしまった。私は洗脳された2人にまんまと誘い出されてしまったというわけだ。


 こんな状況になってしまったら、やることは一つ……


「……わかった。別にアナタのやろうとしていることを否定するつもりはない。それに、そこの瀬葉と伊勢崎という者がどうなろうと、私の知ったことではない。だから、とにかく私達夫婦は帰してくれ」


 私がそう言うと、平野はニンマリと微笑んだ。その瞬間、私は身体中に嫌な予感が走る。


「そうだなぁ。俺はそうしてもいいんだが……アンタの奥様は違うんじゃないか?」


 そう言われて私は慌てて佳乃を見る。佳乃は……まるで尊いものを見るかのように平野を見ていた。


「旦那……アタシ……ここで一生暮らすよ」


 それから私の方を見て笑顔でそう言った。私は……さすがにその場で座り込んでしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る