第97話 不死者の聖石 其ノ弐

 それから私達夫婦は本当に伊勢崎に連れて行かれることになってしまった。


 車に乗せられ、知らない街を向けていく……段々と人里離れた場所にやってきてしまった。


 伊勢崎の話では、既に伊勢崎は信者として潜入しているらしく、伊勢崎の紹介があればすぐに入会できるらしい。


「……しかしなぁ」


 私はそれでも心配だった。無論、それは完全に旅行気分でやってきている佳乃のことである。


「フフッ……心配ですかな? 古島様」


 運転席の瀬葉がそう言ってきた。相変わらずの笑顔の老紳士はどことなく恐ろしい。


「それは……まぁ。何より私は足が不自由だからな。万が一の事があった時に私は佳乃を守れない可能性がある」


「大丈夫です。私と御嬢様も既に入信しております。何かあれば私が古島様ご夫婦をお守り致しますよ」


 そうは言っても瀬葉の優先順位はあくまで伊勢崎が第一位のはず……結局のところ、私が佳乃を守らねばならないのである。


「でも、旦那……随分と遠くまで来ちゃったね。店を暫くの間休みにしておいてよかったよ」


 佳乃が席の後ろから呑気そうにそう言う。私は思わず大きく溜息を付いてしまった。


「ええ。そろそろ……見てくるはず」


 伊勢崎がそういうと同時に視界の前方に大きな建物が見えてきた。


「……ホテル?」


「ああ。なんでも平野月信の実家は元々ホテルを経営していたらしい。それで、そのホテルが現在は奴らの教団そのものになっているというわけだ」


 段々とそのホテルが近づいてくる。私はホテルが近づいてくるごとにどんどんと不安になってくる。


 自分から、怪物の口の中に入っていくかのような……そんな感覚だった。


「フフッ。ホテルって、なんか本当に旅行みたいだね、旦那」


 嬉しそうな佳乃。私は苦笑いで佳乃を見ることしか出来なかった。


 そして、程なくして車はホテルにたどり着く。ホテルの前には大勢の人が出迎えている。それこそ、本当にホテルの出迎えのようだった。


 私達は車から降りた。


「ようこそいらっしゃいました。古島さん。そして、奥様」


 大勢の人の奥から声が聞こえてきた。現れたのは……白いローブのような服を着た、一人の男性だった。


「……あれが、平野月信だ」


 伊勢崎が耳打ちする。服が少し変なこと、そして、胸元に何かの宝石のアクセサリー……美しい赤い宝石を下げている事以外は……普通の男性だった。


「さぁさぁ。長旅だったでしょう。どうぞ、まずは疲れを癒やして下さい。それから、私自身の話をさせてください」


 それこそ、ホテルの支配人のようにうやうやしくそういう平野。しかし、私は既にどうにも不気味な気分だった。


 なにせ……平野だけでなく、平野以外のその周りの人間もニコニコ笑顔で私達を見ていたのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る