第78話 夢の後で 其ノ貮

「……なるほど。それがお前の猫の姿というわけか」


 私は団子を皿の上に戻して、猫を見る。


「ええ。お兄さんの言うとおり、私は化け猫……今日は猫の姿で参上致しました」


「……なぜ?」


 私がそう訊ねると、黒猫は目を細める。


「だって、人間の姿で現れたお兄さんに殺されちゃいそうですもの。ここは現実。夢の世界みたいに私の自由にできるわけじゃないので」


「……なるほど。猫の姿ならば殺されない……そう思ったんだな」


 黒猫がそういうのを聞いて、麻子は呆れ顔で黒猫を見ている。


「アナタ……まだ旦那を狙うんですか?」


 麻子は呆れ顔で黒猫に訊ねた。


「もちろんです。ああ! でも、先輩の邪魔はしませんよ? お兄さんは先輩が先に見つけた獲物だから」


 黒猫はそう言って私を見る。私も黒猫を見る。そして、大きく息を吐き出した。


「……わかった。だが、さすがに私も疲れた。ここは休戦しないか?」


「はい? 休戦ですか?」


 黒猫は不思議そうな顔で私を見る。


「ああ。ほら、これ」


 そういって、私は黒猫の前に団子を差し出す。


「……なんですか? これ」


「今は魚はそっちの白猫にやってしまった。お前は団子で我慢してくれ……それとも猫って団子食べられなかったか?」


 すると、黒猫は得意そうに私のことを見る。


「いえ。私は化け猫なので……大丈夫ですよ。それに、お兄さんがそういうのならば、私も少し手心を加えてあげましょう。先輩もいますしね」


 そういって、黒猫は私の手にした団子に口をつけようとする。


 ……そうだ。食べろ。


 お前の最後の食事になるであろう、この団子を食べてくれ……


 邪悪なドス黒い感情と共に、私がそう思った……その矢先だった。


 パシッ、と団子を持ったままの私の手を、誰かの手が掴む。


「……何やってんの? 旦那」


 私の手を掴んだのは……佳乃だった。

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