第66話 交互日記 其ノ参
私は……悩んでいた。目の前には、弥生さんが置いていってしまった如月さんものと思われるノートが置かれている。
正直、之が一体何なのか、私にはわからなかった。なぜ、新谷はこんなものを私に持ってきたのだろうか。
……興味は湧いてきた。しかし、人間として果たして中身を見てしまって良いのか……
「あれ? 旦那。どうしたの?」
佳乃が話しかけてきた。私は少し困ったように佳乃を見る。
「……君、この日記、中身を見るのは問題かと思うかね?」
私がそう言うと、佳乃は少し悩んだ後で苦笑いする。
「う~ん……でも、まぁ……ちょっと心配だし……そもそも、どうして新谷さん、奥さんの日記なんて売ろうとしたのかな? アタシだったら、ちょっと嫌だし……寂しいな」
「寂しい? なぜ?」
私がそう言うと佳乃は当たり前だと言わんばかりの表情で私を見る。
「だって……もし、旦那が同じことをアタシにしたら……それこそ、旦那はアタシに興味がないのかなぁ、って思うよ?」
そう言われてみれば……確かにそうだ。そこで私は流石におかしいと思った。
新谷は如月さんを愛していた……興味がなくなるなんてあり得ない。
つまり、やつがこのノートを売りに来るということは……
「……少し見てみるか」
流石に放っておけないと思い、私はノートを開く。
それは確かに日記帳だった。日付が書いてあり、その下に本文が書かれている。
「どう? 変な事書いてある?」
佳乃は私の隣りに座って尋ねてきた。
「いや……ただ、これは年月日からして、戦時中のものだな。それに……」
書いてあるのは……日記というよりも、戦地に行ってしまった新谷への愛しい思いだった。
それが毎日1頁ずつ書かれているのだ。こんな大切なものを新谷はなぜ私に売ろうとして……
「……おや?」
と、唐突に日記は終わってしまった。しかも、随分と中途半端な日にちに終わっているのである。
「え……終わり? なんでこんな……」
佳乃も不思議そうな顔でそう言う。私は最後の頁を見てみる。
……その内容を見ても、明日も日記を書き続ける旨が書かれている。
それに、如月さんは丁寧な人だった。こんな日記を途中で投げ出す人ではない。
私は頁をめくる。すると、なぜか数ページ飛ばして、再びまた文字が書かれている。
そこには……最初に書かれていたのは、如月さんの字ではなかった。
「これは……新谷の字か?」
そして、内容はなんとも不思議なものだった。
「『こうして奇跡的に、このノートが無事だったことに感謝しているよ。組織で学んだ秘術のおかげで、このノートを通してであっても、如月……君と会話できているんだから……あんなおかしな組織に属して苦労した甲斐があった……必ず、君を元に戻してみせるよ』……なんだこれは?」
そして、その下には……酷く乱れたごく短い文章が書かれている。
書かれているというよりも、なんだか文字がノートから浮き出してきたような……そんな不気味な文字だった。
「『やめて わたしのこと もうわすれて』……これ、如月さんの字? でも、なんだかすごく乱れていて……」
佳乃も不安そうだった。そして、その後の頁にも新谷の文字、そして、不気味な文字が交互に書かれている……それは、まるでこのノートを通して会話しているように見えた。
そして、ノートは最後の頁になった。それは新谷の文章だった。
「『如月。大丈夫。安心してくれ。俺は全てをもとに戻すことができる術を手に入れたんだ。この国が隠し持っていた秘密……俺はそれを盗み出した。これがあれば、君をもとに戻せる。俺はどんな手段を使っても……君をもとに戻すよ』
書きなぐったように書かれた文章で、頁に空白を半分以上残して、ノートは終わっていた。
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