第45話 追憶の日記 其ノ参
「さぁ! こちらです!」
……どう見てもドレスを来ているのは佳乃である。ただ、今よりも少し若い……おそらく、私の家に来る前の時の佳乃だ。
しかし、ワタクシ、って……私の知っている佳乃はそんな言葉を使わない。
佳乃が連れてきた先にいたのは……燕尾服を着た紳士と、着物姿の淑女だった。
「おお、君が古島君か。父上から話には聞いているよ。父上同様、骨董品に対してはいい目を持っているそうだな」
「え……は、はぁ……」
「私は佳乃の父だ。古島の家の跡取りなら問題ないと思っている。お前もそう思うだろう?」
そういって、佳乃の父と名乗った男性は、隣の女性に尋ねる。
「ええ……佳乃は少し活発な所がありますが……よろしくお願いします」
「もう! お母様ったら!」
そういって頬をふくらませる佳乃。佳乃の両親らしい男性と女性も笑う。
これが佳乃の倒産と母さん……没落する前らしく、とても裕福そうだ。しかし……
「あー……こんなことを聞くのは申し訳ないんだが……武蔵野様、ちょっと良いですか?」
「ん? なんだ?」
私は思わず聞かずにはいられなかった。これが夢だと分かっていても。
「その……何かに投資などはしていませんか? かなりの金額を」
私がそう言うと佳乃の父は怪訝そうな顔をする。
「いや。私の趣味はもっぱら骨董品だ。だからこそ、君の父上とも仲良くさせてもらっている。投資などはしていないが……何か?」
私は一瞬戸惑ってしまったが、すぐに「そうですか」といった場を取り繕った。
どういうことだ? 武蔵野家は投資で没落したはず……それなのに、投資には興味がないというのは。
というか、佳乃の父は……親父と仲良かったのか。確かに親父はなぜ佳乃を引き取ったのかといった話を一切しなかった。
じゃあ、その理由は……
「失礼。武蔵野のお嬢様とご両親でしょうか?」
と、またしても聞き覚えのある声が聞こえてきた。私はそちらの方に振り返る。
「おお、伊勢崎のご令嬢か。久しぶりだな」
佳乃の父がそう言って、挨拶をする。
目の前の女性は黒いドレスを纏った、妖艶な感じの少女……佳乃と同じ年くらいの少女だった。
「え……伊勢崎?」
私も思わず訊ね返してしまう。すると、少女は小さく一礼して私を見る。
「はい。ワタクシ、伊勢崎彩乃と申します。以後、お見知りおきを」
彼女は確かにそういった。伊勢崎彩乃、と。
そして、実際、その顔は……帝財局所属の大佐と言って、私の店を訪れたあの伊勢崎彩乃と同じものであったのだった。
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