第2話 氷点菓 其ノ貮

 そして、それから何時間が経ったのだろうか。


 いつの間にか本格的に眠ってしまっていたようだった。


「ふわぁ……よく寝たな……」


 私は大きく伸びをしながら目を覚ます。


 既に外からはオレンジ色の光が差し込んでいる。


 ……かなりの時間眠ってしまっていたようだった。


「……ふぅ。佳乃、いるのかい?」


 私が声をかけると……佳乃は店の奥の居間に座っていた。


「……なんだ。いるなら返事をしてくれ」


 そういって、私は杖を持ち、立ち上がる。そして、佳乃の側に近寄っていった。


「佳乃……ん? 君……どうした?」


 見ると佳乃は……顔面蒼白で震えていた。


 まるで雪山で凍えている人のように……とても寒そうにガチガチと歯を鳴らしていたのである。


「あ……ああ……旦那……」


 消え入りそうな声で、佳乃は私にそう言った。どう見ても尋常じゃない様子だったので、さすがの私も不安になってしまう。


「な……何があったんだ!?」


 すると佳乃は懐から袋を取り出した。それは……


「これは……先程の菓子か?」


 既に半分程減っているようだ……佳乃は一人で食べたらしい。


「だ、旦那……これ……ちょっと効きすぎ……」


 ……私の心配が当たったようだった。私は思わず佳乃から袋を取り上げる。


「言わんこっちゃない……そもそもこれはなんだったのだ?」


 私はそのまま袋を眺める。見ると、袋の後ろには何か小さく文字が書かれている。


「ん? ……『効果激烈ナリ。連続使用ヲ禁ズ。凍死ノ危険性アリ』……はぁ……」


 私は思わず大きくため息をつき、そのまま押し入れから布団を取り出し、毛布を佳乃にかぶせた。


「だ……旦那?」


「……これは捨てるぞ。まったく……物置から七輪でも取り出してくる。夏に凍死なんてシャレにならないからな」


 私はそう言ってそのまま物置に向かった。なんとか七輪を取り出し、居間に持ってきた。


「ほら、火を付けたぞ」


 夏だというのに七輪に火が灯っている異様な光景だったが……佳乃はこれ幸いとばかりに手を七輪に向けた。


「あぁ……温かいねぇ~、旦那」


 嬉しそうにそういう佳乃。この分なら命に別状はなさそうである。


「……いや。暑い! 私はめちゃくちゃ暑い!」


 無論当たり前だった。この糞暑いのに七輪など使っているからである。


「え? じゃあ『氷点菓』……食べれば?」


 佳乃は至極当たり前のように私にそう言った。私はそれ以上はもう何も言うことができなかった。


 それからしばらく、「駄菓子屋が売っている透明な飴を食べすぎると凍死する」というわけのわからない噂が、私の店の近所に流れたのだった。

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