第3話 カリンとジュリア先生
「あなた、大丈夫ですの?」
問うたジャスティナに少女はお礼を口にします。
「あ、うん。助けてくれてありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしましてですの。悪党は許さないのが正義の少女探偵ジャスティナ・ゴールドフィールドの
「カリン」
「カリンちゃんですの。よい名前ですわ。わたくしのことはティナと呼んでくださいね」
「ティナお姉ちゃんね、わかった」
「ところで、カリンちゃんのおうちはどこですの?」
「この先にある町よ……そうだ、あの大男の人、ニハチローさんって、すごく強いよね? お願い、ジュリア先生を助けて!」
「ジュリア先生? どなたですの?」
「あたしたちの孤児院の先生なの。さっきみたいな悪いやつらに脅されてるの! でも、ジュリア先生は言うことを聞かないから、あたしを人質にしようとしてたの」
それを聞いたジャスティナの深い青色の瞳が輝きました。
「そんな悪党は許せませんの! わかりましたわ。あなたの孤児院へお邪魔しますの。二八郎、行きますわよ! カリンちゃんは助手席に乗ってくださいね」
「はい! あ痛ッ! あ、足が……」
立ち上がろうとしたところを、再び崩れ落ちるカリン。先ほどの無体な鉄パイプ攻撃で傷めた足の怪我はカリンが思っていたよりひどかったようでございます。
「ひどいことを……ちょっと見せてくださいね。ふむ、骨は折れていないようです。打ち身と捻挫ですわね。二八郎、救急箱を」
二八郎がバギーのトランクから取り出した救急箱を開け、てきぱきと湿布を当てて包帯を巻くジャスティナ。怪我の治療も手慣れているのでございましょう。
「これでいいですわ。でも、数日は安静にしておく必要がありますわね……二八郎!」
ジャスティナが声をかけると、二八郎はうなずき、その強力でカリンを抱き上げます。そして、お姫様抱っこで軽々とカリンを運ぶとバギーの助手席に優しく下ろし、自分は後部座席に乗り込みました。
「さあ、それでは参りましょう! シートベルトを着けてくださいね」
運転席に飛び乗ったジャスティナは自らもシートベルトを着け、カリンも着けたのを確認してから勢いよくアクセルを踏み込みます。
タイヤに金切り声を上げさせて急発進したバギーは一路カリンの町に向かうのでありました。
バギーが孤児院の前に止まると、その音を聞きつけたのかドアが開き、ひとりの女性が出てまいりました。年の頃は二十代半ばくらいでございましょうか、ブルネットのゆるくウェーブがかかったロングヘアに
「ああ、カリン、無事だったのね!」
助手席のカリンを見た女性は、そう叫ぶとバギーに駆け寄ってまいりました。
「ジュリア先生! この人たちが助けてくれたの。ティナお姉ちゃ……ジャスティナさんとニハチローさん」
カリンがそう言うと、ジャスティナはシートベルトを外してバギーから降り、優雅に一礼してジュリアに挨拶いたします。
「はじめまして、わたくしは少女探偵ジャスティナ・ゴールドフィールド、後ろの者は助手の銕二八郎です」
「ヨロシク」
いつの間にかバギーから降りてジャスティナの後ろに控えていた二八郎も、ぼそりと一言つぶやいて頭を下げました。巨体の割に、身のこなしは意外なほど素早いようでございます。
「まあ、それは本当にありがとうございました。カリンが帰ってこなくて心配していたのですが……あいつらね?」
ジャスティナたちに礼を言ってから、カリンに確認するように問いかけるジュリア。それにうなずいてカリンは元気よく言いました。
「うん、ブラックドッグ三兄弟に追いかけられてたの。でも、ニハチローのおじちゃんが簡単にぶっ飛ばしてくれたの!」
それを聞いたジャスティナは、年に似合わぬ苦笑を浮かべながらカリンに頼みます。
「『おじちゃん』と呼ぶのはかわいそうな年ですから、『お兄ちゃん』って呼んであげていただきたいですの」
「え、そうだったの!? ごめんねニハチローお兄ちゃん」
「気ニシナイ」
あわてて謝るカリンに、ぼそりと片言で答える二八郎。このあたりで話されている言語には、あまり達者ではないようです。もっとも、性格的にも本来無口なのでございましょう。
「まあまあ、お強いんですのね。本当に助かりました。ささやかですが、お礼をさせていただきたいので、お入りいただけませんか?」
「お礼なんて、お気になさらずとも結構ですの。ただ、気になることがあるのでお邪魔させていただきますわ」
ジュリアが促したのにジャスティナが答えると、二八郎がカリンをバギーから降ろして抱きかかえ、ジュリアの後に続いて孤児院に入ります。
外見はいかにも古そうな孤児院でしたが、内装は小ぎれいに整えられておりました。部屋の壁は塗り直され、カーテンやテーブルクロスなどのファブリックは古びてはいるものの丹念に
勧められるままテーブルに着いたジャスティナと二八郎に、ジュリアが年代物の――というよりは古びた――ティーセットでハーブティーを出してまいりました。
「大したおもてなしもできませんが」
恐縮しながら言うジュリアに、ジャスティナはハーブティーの香りを感じるとにっこりと笑って答えました。
「ミントティーですのね。スッキリするので大好きですわ。自家製ですの?」
「はい。裏の畑で栽培しています。殺菌効果があるので、いろいろ役に立ちますから」
「それはステキですわね」
にこやかな笑顔を崩さないジャスティナでございましたが、内心ではこの孤児院の貧しさを再確認しておりました。紅茶など買う余裕がないから、荒れ地でも育つミントを自家栽培したハーブティーなのであろうと。
そんなことを思いつつも、フレッシュなミントの香りが立つティーカップをなめらかな動きで取り上げ、その香りを心ゆくまで楽しんでから口に含み、
それから一呼吸おいて、ジャスティナは単刀直入に尋ねました。
「ところで、ジュリアさんは何やらトラブルに巻き込まれているとカリンちゃんから聞きましたの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます