第8話 別れ

2月22日 水曜日


明日は早朝に出発して帰国しなければいけないので今日が事実上の最終日だ。

それもあり足早にホテルを出て、ペスト地区からブダ地区へドナウ川を渡っていく。


目の前にツィタデラ要塞という場所へ登ることにした。

地元のおじさんが散歩しながら登っているだけでとても静かな場所だ。


1848年革命の際、独立戦争を起こしたハンガリーをロシア軍の力を借りて何とか鎮圧したオーストリア軍はブダペストを監視すべくこの要塞を建設した。

その後も第二次世界大戦で市街戦の舞台になるなど深い歴史がここにはある。

曇り空のブダペストを一望し、ハルヒのこと、歴史のことについて物思いにふけっていた。


高校生の時の夏のようにデジャヴを感じることも、やり残しがある訳でもないが

この手を離したくないなとだけ考えていた。

数か月で帰ってくるのだからそれまでと言ったらそうなのだが、そこで腑に落ちるようならデリカシー無さすぎと朝比奈さんと長門から非難轟轟間違いなしだ。


要塞を降りて、坂道を下りながら北へ向かった。

道がレンガになり観光地の趣が出てくるとブダの歴史地区に入る。

その中でマーチャーシュ聖堂は今回の旅行で最も美しい風景だった。

屋根にはマジャールの民族衣装のような模様が描かれていて、白壁の美しい聖堂だ。

見渡す限り金色で、奥にステンドグラスがあり日が差し込んでいる。


城内散策が終わると昼を過ぎていた。

はためくモンテネグロ国旗を横目に橋を渡っていく。


国立博物館に入ると、ハンガリーの歴史に関する展示になっているようだった。

はじめは騎馬民族としての国の成立が描写されていた。

その後は色が変わってくる。フランスの地図があり、ベルギー・ドイツ・イタリア・スペインなど周辺諸国に領土を奪い取られ残り4割がジャガイモのように無残にも存在している。

これと同じことをハンガリーに課したのだと言いたいのだろう。

スロバキア分割の時の首相のサインやドイツを真似た「矢十字党」の制服、破壊されたスターリンの胸像やハンガリー動乱の時の真ん中をくり抜いた国旗などが展示してあった。

教科書を暗記するよりもこっちの方が断然覚えられるだろう。


2人して展示に見入ってしまい大分時間が過ぎてしまった。

市場で名産のフォアグラを買い込んで足早にホテルに戻る。


キョン「荷物が大分増えたし、これから荷造りをするよ。ハルヒはゆっくりしてって良いぞ。」

ハルヒ「あたしにもさせなさいよ。」

キョン「分かった分かった。」

ハルヒ「今日が最終日だなんて信じられないわ。それにしてもあんたが来てくれて本当に良かった。半年顔を見ないだけでこんなに会いたくなるなんて、団員として結構なことだわ。」


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朝、というよりかは真夜中に起きてタクシーに乗り込み、ブダペスト駅に向かった。

駅には一瞬で到着する。運転手に待ってもらい、ハルヒの手を引っ張って構内へ入る。

駅に降り立った時のように雑然とはしていなかった。


キョン「なあハルヒ、」

ハルヒ「何?」


思わずハルヒを抱きしめた。熱く。強く。

ハルヒ「突然何よ…。心の準備っていうものがあるんだからね。」

キョン「ハルヒは俺が幸せにする。これからもよろしくな。」

ハルヒ「半年で会えるんだから何たってことないわよ。キョンも日本で頑張るのよ。」

キョン「ああ。ハルヒも気を付けてな。」


ウィーン行きの特急へ乗り込んだハルヒに手を振り続けた。


さて、撤退だ。

ハイウェイを飛ばしてブダペストの空港に着いた。

人は少なくスムーズに流れていく。

荷物検査では靴下まで脱がされるのは初めてだったが難なく終わり、エールフランスの印があっという間に目に飛び込んでくる。

パリでは行きのように荷物トラブルはなく乗り換えはスムーズに済み、あっという間に家路についた。


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キョン「引っ越しは1週間後だから急がないといけないな。悪いがハルヒも手伝ってくれ。」

ハルヒ「これ学生の時に買った指輪じゃない?本当に懐かしいわ。わざわざ飛んで来るなんて今思えばあんたも物好きなことをしたわね。」

キョン「一言余計だがハルヒに会いたくて仕方なかったんだろうな。今はこうして家族と一緒にいられるだけで幸せだよ。」

ハルヒ「そうね。とりあえず急いで新居へ持ち出す荷物をまとめるわよ!」

キョン「はいはい、団長様。」

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再会と別れ Tylorson @LibertyLiterature01

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