第9話「新たな試練」

「そこまで!」


 いきなり入ってきた、豪勢な鎧をフルプレートで身に着け、毛皮の外套をまとった男が大声をあげていた。騎士長アルヴェニング。私は何度か見かけたことがある、厳ついおじさんだった。


「いやぁなかなか面白いものを見せてもらったぞ異界の剣士よ。二兵長トリス、いかんなぁ相手が打ち合いに興じてくれんからといって誘いに乗っては。まだまだ精進が足りん! すぐに手当を受けて反省文だ!」


 入ってすぐの広間で行われていた決闘もどきは、騎士長の一喝ですぐにお開きとなった。私もドルテも、正直なところ柊の戦い方はよくわからなかった。


 どうしてそうなるのかわからないくらい、自然に相手は貫かれていたのだ。それだけ二人に力量の差があったのか、それとも召喚された者特有の、あるいはあの世界特有の異能があるのかも。


 それともあれが魔剣なのかもしれない。引き抜かれた刀身は美しく、波を打つ文様が実に素晴らしかったから。


 トリスという兵士が従者の人たちに運び出されたあと、柊はなんだかつまらなそうな顔でこちらへとやってきた。


「つまらねぇ。もっと粘る奴かと思ったんだが」

「ひいらぎ、思ったより血気盛んね。あんな平和な世界でどうして?」

「知らねぇ。俺は昔からこうで、よく爺様に叩き込まれてた。まだ足技も使ってねぇのに」


「……剣術じゃないの?」

「古武道の剣術は足も礫も使うし、絞め技もあってな」

「ほう、興味深い。だがまぁその話はあとにしようか異界の剣士よ」


 騎士長は楽しそうにこちらへとやってきた。すごいにこやかである。いつも祭典の時とか、もっと難しい顔をしていた印象なのに。


「王からの勅命だ。召喚されしもの”断頭台の竜ギヨティーネドラグーン”を討伐せよ。叶わぬ場合、イスハイト機関の全員を処刑する。……あの王も相当頭いってるな。ってなわけで異界の剣士よ、退屈はせずに済むぞ」


 言いながら、騎士長アルヴェニングは私の肩へと手を回していた。近い、重い。暑苦しい。というか処刑って言った?


「よって召喚士の娘よ。お主もその一員である以上、身柄を押さえさせてもらうぞ」


 騎士長はにっこりと、すごい楽しそうにそう言った。


「ま、まって。ちょっと待ってください騎士長。そう、そうです。彼の異界の力は、召喚者である私がアドを通さねば発揮できぬよう召喚してあります。制御のために! だから、私もその場に立ち会わなければ、彼は力を発揮できません!!」


「なんだつまらん。ま、そういうことなら竜の餌が二人に、いやそこの青い子も含めて三人になるわけか。なんだ勿体ないなぁ。では転送の用意をしてくるので、準備をしておくように」


 騎士長は変わらぬ調子で広間から去って行った。あんな笑顔でいったい何を考えていたのか、底が知れない人だ。正直怖い。


「で、なんなんだ?」

「ひいらぎ、よく聞いて。ドラゴンと戦うことになった。それと、それ以上に大事なこと。次の揺れ戻しまでに、さっきの魔法陣のもとに二人揃って戻って来たいの」


「……次っていつ?」


「正確にはわからないけど、半日以内には来ると思う。召喚は別世界へ存在を再構築する行為だから、気をつけないと姿形や魂が保てなくなる。無茶を言ってるのはわかってる。けど、竜退治も何とかして欲しい。じゃないとおじいちゃんたちが……。だからお願いひいらぎ、どうにか、切り抜けて」


「ま、心配すんな。どうにかするさ」


 私の無理な注文と懇願に、柊は私の手を取り、しっかりと握って。正面から答えてくれた。それはとても頼もしくて。力強くて。なんだかとても嬉しかった。

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