第7話「最強の召喚物?」
「あらあらマスター? お愉しみでしたか?」
「ちが、う。起こしてドルテ」
私は帰ってきた。あの、三日かけた魔法陣の元へ。台座のような机分の高さから放り出された私と柊は、絡み合うようにして地面へと突っ伏していた。
こちらはほぼ裸だというのに、柊は遠慮なくくっついてきている。そりゃ召喚される時の感覚は浮遊感というか、呑み込まれるというか、世界に取り込まれるような感じがして、ちょっと怖い。だからまぁ、これは許そう。
「ありがとうドルテ」
「マスター、その方がもしや最強の?」
私を助け上げたドルテは、床に座り込んであたりを見回す柊を横目にそう言った。そうか、そういう召喚だった。戻れた安堵はすぐに消えてしまう。
今から王の使者に、柊を最強の召喚物として紹介しなければならないのだから。どうしよう、流石に無理があるよね。
「ここが異世界、か? よくわかんねぇな」
「ここは召喚の祭場。ひいらぎ、今から君は」
簡単に肌を拭い、持ってきていた服を身に着けつつ私は事の次第を説明しようとする。しかし、その説明は扉から入ってきた新たな人物によって遮られてしまった。
「……まさかそれが最強の召喚物とでも言うつもりか?」
入ってきたのは焚火のところで会った若い兵士だった。兵士は柊を見て鼻で笑うと、訂正。大声で腹を抱え、身を折って笑い始めた。
「こんな少年が、本当に? いやいや、流石国一番の召喚士様だ!」
「あー、なんだこいつ」
「ルニエ・ツェルニク、こんな恥ずかしいものを王の御前に出す気じゃなかろうな!? くっくっく、その前に俺が試験をしてやろう。俺に勝てぬようでは王の前になど到底出せんからな! 丁度祭場入り口広間が良い広さだ。あそこにしよう」
兵士は好き勝手言って出て行ってしまった。すごい苛つく兵士だ。最初から私を、召喚士をバカにするつもりで見物しに来たに違いない。こてんぱんにしてやりたい。私は平和主義者だけれど。そう、柊が。
「一体どうなってんだ?」
「ひいらぎ、ちょっと事情があって」
私は研究所の事と、この召喚の意味、あの兵士が何を試そうとしているのか。柊に求められているものは何なのかをかいつまんで説明する。
「はー、なるほど。で、俺はあいつをボコればいいのか?」
「ぼこる? ちょっと意味がわからないけれど、あれでも王に選ばれた兵士だから。ドルテ、ごめん。ちょっと手伝ってもらえる?」
私はドルテを呼んだ。その力をよく知っているから。この国で1、2を争う高位な存在である彼女は強い。ただ、彼女の希望で戦闘能力は隠している。それが契約の条件だったから。
「同胞よ。今からあの高慢な兵士に切り刻まれてしまうと考えると気の毒です。少しくらいなら力を貸しましょう」
「あー、いいよ。俺あいつと戦ってみるわ。ま、なんとかなるだろ」
「ひいらぎ、それは無茶。いくらなんでも、君の世界は長い間戦いがなかったんでしょう?」
「古武道の剣術指南なら叩き込まれてる。だから、ちょっと試したい」
「あらあら同胞。これは頼もしい。私が憑依する必要もないと?」
憑依。そう、憑依だ。私が術を介し、この世界のドルテを疑似召喚して柊に憑依させる。それがドルテと私の切り札のひとつ。ドルテの戦闘形態は翼も、鋭利な爪もあるから、そういったものを身に着けさせ、力として異能を付与できる。
「要らねぇ。あの兄ちゃんだろ? でも魔法は勘弁してほしいな。見えねぇもんは斬れねぇし。っていうか武器は?」
「それなら多分」
私は触媒として魔法陣の中心に置いてあった刀剣を指さした。王の所有物としてしっかりと手入れされているはずだから、実戦にも耐え得ると思う。
柊がどういうつもりなのか、私には読めなかったが、その自信の根底にある異能こそがあの触媒と繋がる、何かなのかもしれない。私の研究心が、疼いた。
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