第4話「逃避行」
「お前、何したんだ……。5mは転がってったぞ?」
目の前で長身の男、俺の学校における一応は先輩にあたるだろう不良が飛んで行った。なんの予備動作もなく、いきなりの出来事だった。
「もしかして両脇の排水路が繋がっている? なるほど水量に合わせた二段構え。この一帯はそれほどの場所なの? ううん大地自体がこれだから水を吸わないのかな」
それをやった張本人は全く動じず、懸命に何かを分析していた。いやいやいや、そんな流せる事態じゃないだろ。
「て、てめぇら。やりやがったな」
言いながら5mほど飛んだ先輩(名前は忘れた)が立ち上がり、携帯電話を取り出しているのが見えた。こりゃやべぇな。なにがやべぇって血だらけだった。
5mずっと宙を舞ったわけではもちろんないが、数m転がっていったのだ。生きていたことに安堵はすれど、その事実に何をされたか理解していないまでも、誰が加害者なのかはわかっているようだった。
入学当初から付きまとわれ、つい先日手を出してしまった俺はひどく後悔をしていた。あの先輩を殴ったことはたいしたことじゃない。鼻が折れたのもざまぁみろである。しかしてその問題は、その仲間の数としつこさだった。
まるで損なわれた矜持と名声を取り戻すのだと言わんばかりに付きまとってくるうえに、毎回群れてこちらを囲んでくるのだ。数日会わないでいる間に諦めればいいものを、顔を見た瞬間さっきのように絡んできて、更に今では俺関係なしにルニにも敵意を向けている。
「おい。おいルニ。逃げるぞ」
「どうして?」
ルニは一体何を言われているのかわからない、といった様子で小首を傾げていた。
「いいから来い」
ともかく、一刻も早く奴らを撒いて、ほとぼりが冷めるのを待つ必要があった。あいつらの日々の鬱憤晴らしなんかで追いまわされるのはごめんだ。
あの先輩はしばらく根に持つだろうが、呼び出された側は一種のお祭り気分が収まったら飽きて解散していくから、それまでの辛抱だ。
家に戻るという手もあるが。流石に向こうもお遊び気分で喧嘩やいじめがしたいのであって、家や家族を巻き込んだ警察沙汰は避けるだろう。とは思えど、張本人があんな姿じゃ相当キてるだろうから何をするかわからない。
俺はしばらく戸惑うルニの手を引いて逃避行を決め込んだ。
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