第18話

 山城先輩に指摘され、自分なりに試行錯誤してタイムをまとめてみた。

 手書きで表を書くのは不格好だったので、家にあるパソコンで簡単にリストを作ってみる。

 タイム順って言っていたけれど、どうせなら今までのタイムとも見比べやすいリストがあった方がいいよね。

 現実世界でも仕事でパソコンを使うことが多かったので、これくらいはすぐに出来る。


「こんなものかな……」


 何時間かパソコンへ向かいあい、作成したリストを印刷する。

 ついつい調子に乗って分厚いリストを作ってしまったけれど、山城先輩にまた怒られたらどうしよう。

 手書きにしろっつっただろ、とか理不尽に怒られるかもしれない。


「考えていても仕方ないよね……げっ、もうこんな時間。寝よ寝よ」


 時計は既に深夜零時を過ぎている。

 夜更かしすると肌に悪いのだ。私は慌ててベッドへともぐりこんだ。


 次の日、陸上部でいつも通り手伝いをしながら山城先輩を遠くから観察する。

 すぐにでも資料を渡したいが、練習時間を削っては本末転倒だ。

 山城先輩が休憩するタイミングを虎視眈々と狙っていると、練習から暫くして木陰へと移動した。今だ!


「山城先輩、今良いですか?」

「あァ?なに」

「資料、まとめてみたのでご覧いただければと」

「あー。昨日言ってたやつか。どれ」


 先輩に資料を渡すと「多くね?」と言われてしまった。

 その分充実した中身となっているはずですよ!なにせ社会人がまとめた資料ですからね!

 社会人が作成したにしては微妙でも、中学一年生がまとめたにしてはこれ以上ないくらいの出来になっている。……はず。


「……」


 山城先輩はぺらぺらとページをめくるものの、何も言わない。

 あ、あれ……中学一年生にしてもダメだったかな……。

 なんだか一気に自信がなくなってきてしまった。


「えぇっと、先輩……?」

「これ、おまえがまとめたのか?一人で?」

「は、はい……」

「よくまとまってんじゃねーか。見やすいし、タイムも間違ってねーしな」


 褒められた!やった!

 でもここは冷静に。浮かれる姿なんて見せたらいけない。


「先輩、あの……もしかしてタイム全て覚えてらっしゃるんですか?」

「あー……まァな」

「えっ、全員分ですかっ?!」

「大体だ、大体」


 まとめてきたのは全部員の歴代タイム。

 記憶力が良いとかそれは勿論あるだろうけれど、それ以上に陸上に真剣であり周りにも目を配っている証拠なんじゃないだろうか。


 アニメで観ていた時は完全に主人公に対する悪役小物キャラだったけれど……もしかして山城先輩って主人公に出会うまでは本気で部活に取り組んでいたのかな。


 山城先輩のタイムは昨日見た限り伸び悩んでいた。

 本気で陸上に打ち込んでずうっとタイムが伸びず、三年になってからひょいっと現れた後輩に試合の出場枠を全て奪われたら……やさぐれてしまう心は想像に難くない。


「あとで部長にも渡しておくわ」

「あ、あの、先輩っ……」


 去ろうとする山城先輩を咄嗟に引き止めてしまったけれど、今の私が何を言ったら先輩にとって、この世界にとってプラスになるのだろう。


「……応援、してます」

「んだそれ」


 山城先輩は鼻で笑って去っていった。

 アニメで観ている時は陸上部がいかに良い成績を残せるか。それしか考えていなかったし山城先輩のことも必要な犠牲(悪役小物)としか思っていなかった。

 だけど実際にこうして毎日努力している姿を見ると、そんな簡単には割り切れない。


 山城先輩だけじゃない。

 アニメでメインとして出てこなかった人たちは、きっと頑張っても努力が実らないのだろう。

 だけどそれを知っているのは私だけで、皆は努力すれば報われると本気で思って頑張っている。


 なんだかそれって、すごく残酷な気がしてしまうのは私のエゴなのだろうか。



 部活を終え、右京と一緒に帰るも無言が続いた。


「おい、蘭子どうして今日静かなんだ?」

「んー……ちょっと」


 右京の相手をする気力がない。というか、心が痛いのだ。

 陸上部の手伝いをして、蒼先輩に毎日会えると喜んでいたけれど……実際手伝っていると「この人は活躍する人だ」「この人はそうじゃない人だ」と自然と思ってしまう。

 それってすごく失礼だと思うし、考えないようにしたいのにどうしても脳内で自然とそう思ってしまう。

 なんだか私がすごく意地悪なようで、心苦しい。


「ちょっとコンビニ寄るぞ。腹が減った」

「んー……」

「なにかいるか?」

「じゃあアイス……」

「そこはしっかり答えるんだな……」


 呆れる右京を見送りコンビニの外で暗くなった空を見つめる。

 星の数だけ人がいるけれど、そのうち名前が残る人なんて一握りなんだよな……なんて詩人のようにふけっていると声がかかった。


「あれ、西條さん?」

「えっ……蒼先輩っ!? ど、どうしてここにっ!?」

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