第16話
「それじゃ、俺は着替えてくるから」
右京に連れてこられた陸上部。
部活見学時期も終わり、部活に入る気がある子は既にみんな入部している。
だから今更見学に行くのは悪目立ちしそうだと右京に何度も言ったのだけど「俺からうまいこと言っておいてやる」の一点張りだった。
アニメを観ている時はあまり気付かなかったけれど、右京って変なところですごく推しが強いな……。
「あれ、西條さん?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには蒼先輩がいた。
「こ、こんにちは!」
声が少し裏返ってしまった。は、恥ずかしすぎる……!!
「こんにちは。元就か右京に用事?呼んでこようか?」
「えっと、そうではなく……」
右京ーー!上手に説明しておいてやる(キリッ)とまで言ってた張本人がいないなんて、どうすればいいのー!
「うん?陸上部に用事だった?」
「えぇと、そう、ですね……そうなるのでしょうか」
右京が考えていたといううまい説明がわからないので曖昧な返事しか出来ない。
右京!はやく戻ってきて……!
「なんだ、蘭子じゃないか」
右京へと願いをかけるも現れたのは元就くんだった。
同じ海若だけど!!違うの、弟の方を呼んでいるの!!
「元就くん……」
「あぁ、そういえば右京が見学に来ると思うって言っていたな」
「見学?西條さん、陸上部を見学するの?」
「えっと……はい、そのつもりなんですが、ご迷惑ならすぐにやめますので!」
「別に迷惑じゃないだろ。なぁ、蒼」
「俺は別になんとも思わないけど……先輩たちがどう思うかだよね。見学するってことは入部希望なのかな?」
「入部は……えぇっと……」
入部する気はないですが出来る限り傍で見ていたいです。……とは言えない。
「すみません、蘭子は俺が呼んだんです」
なんと答えるか悩んでいると、力強い声が響いた。
右京ーー!!!右京、待ってたよーー!!!
「右京が呼んだっていうのは、どういうこと?」
「先日、三年の先輩が記録係が欲しいと言っていたので。アシスタントとして使えそうな蘭子を呼んできたんです。あとで三年の先輩にも伝えるつもりです」
「あぁ、確かに記録係と撮影係が欲しいとは話していたね。でも西條さんは入部する気がないそうだけど、無理やり誘ったりしていない?」
蒼先輩は心配そうにわたしを見つめてくる。
ただの後輩(しかも部外者)として心配されているだけなのはわかるけれど、優しさが嬉しいなぁ。
先輩の誰にでも優しくできるところも好きになった理由の一つなんだよね。
「私は自分があまり陸上競技が得意ではないので入部はしませんが、見ているのは好きなのでサポートをさせていただけるなら嬉しいです」
「本当に?そう言ってもらえると嬉しいけれど、あまり無理はしないでね。来られる日だけで良いから。多分あとで先輩から説明もあると思うけど、毎日じゃなくて週に二回程度で良いよ」
「はい、わかりました」
「うん、それじゃあ。またね」
蒼先輩が去っていく背中を見つめながら心の中で右京に感謝する。感謝も感謝。大感謝だ。
「右京ってすごいね。隙がないね」
「丁度先輩が良いタイミングで話していたからな。兄さん、そういうわけだからあとで部長に説明しておいて」
「え、俺がするのか?」
「俺がするより兄さんがした方がスムーズだろ。一年の俺があんまり出しゃばって波風立てるのも得策じゃないし、頼むよ」
「仕方ねぇなぁ……」
元就くんは渋々といった雰囲気を出そうとしているけれど口元が緩んでいる。
右京に頼ってもらえたのが嬉しかったんだろうなぁ。
「右京って、人を転がすの上手だよね」
「違う。兄さんが勝手に転がるんだ」
悪びれる様子もない右京の言い方が面白くて、つい笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます