第15話
いつの間にか梅雨入りしたらしいこの世界で、私は相変わらず大きな家に一人で住んでいる。
両親からはメールが頻繁に届くから、大事にされていないことはないみたいだけど中学生の子供を一人で置いていくってすごいよね。
まぁ私が考えた夢小説のヒロイン設定だから仕方ないんだけど。
元々、現実世界では一人暮らししていたし寂しいなんてことはなくむしろ気楽だ。
だけどふっと一人で食事している瞬間に寂しさを感じたりもする。
大きなテーブルに、一人分だけの食事を並べて食べるのはなんだかとっても悲しい。
そんな時、必ずといっていいほどに来てくれるのが右京だ。
私は何も言っていないのに、家まで来たり、電話をくれたりする。
幼馴染だからなって右京はいつも言うけれど、それだけでこんなに通じるものなのかな。
私は右京のことを何もわかってあげられないけれど、私がこの世界に来るまでヒロインちゃんは右京の気持ちを察してあげられていたのだろうか。
だとしたら、なんだかそれは……
右京に申し訳ないな、と思うのだ。
「蘭子、風邪ひくぞ」
んんっと目をこすって見上げると右京がいた。
ここは私の家のリビング。
「あれ……ソファで寝てた?」
「ったく……こんなところでぐうぐう寝るなよ。ただでさえ今日は雨が降っていて寒いんだから」
「ぐうぐうなんて言ってないよ。右京は部活帰りなの?」
「あぁ。筋トレだけだけどな」
「だからいつもより早いんだ」
いつもの部活終了時刻より一時間以上早い。
帰宅部の私はここのところ昼寝が日課になりつつある。
みんなが部活に勤しむ姿を横目に帰りながら家に帰ってきてダラダラするのが楽しいのだ。
いや、中学生ってすごいな?毎日勉強だけしてれば良いんだもん。
しかも勉強もずうっと昔に習った部分だから大して予習復習もやらなくて覚えられるし。
でもそのうち勉強が難しくなったらこんな余裕でいられないのかもなぁ。
「部活見学しなくていいのか?」
「したいけどさ~……」
蒼先輩に会いたい。けれど、どうやって話しかければ良いのか分からない。
「兄さん鈍感だけどモテるから、急がないと誰かのものになるかもしれないぞ」
「え、あ~……元就くんね、うん、そうね……それは大丈夫だと思うよ」
アニメでは元就くんがモテる描写はなかったし本人も「部活命!」だったから彼女なんて作らないだろう。
蒼先輩も彼女なんて作っていなかったから大丈夫だとは思うんだけど……アニメとは少しずつ違う部分があるから怖いなぁ。
「兄さんに彼女が出来たら困るだろう。もっと頑張れよ、協力してやるからこんな引きこもりみたいな生活はやめろ」
「え、私引きこもってないけど……」
毎日学校にも行っているし、休日は予定があえば明里ちゃんたちと遊んでいる。
「おまえ、学校終わってから帰宅して毎日寝てるだろう。最近太った気がするぞ」
「うそっ!?」
こ、こんなに華奢で可愛い私が太るなんて有り得ない!
有り得ない、けど……言われてみれば確かにこの世界に来てすぐより肉付きが良いような……?
なんだか腕のお肉がぷにぷにしているような……?
「そのままだとデブまっしぐらだ」
「やだやだ!そんなことない!!!」
なに猫まっしぐらみたいに言ってるのよ!可愛く言っても全然可愛くない!
猫がまんまるなのは可愛いけれど人間がまんまるなのはただのデブだ!!!!!
「デブ活に使う時間を部活に使え。陸上部、見学に来いよ。俺からうまいこと言っておいてやるから」
「……なんて言うの?言っておくけど、私陸上部には入らないからね?」
自分が入ることによって部活の未来が変わるかもしれない。
そう思うと入部なんてしない方が良いと思う。それに、正直陸上の知識もないし……。
「まぁ、良い理由考えておくよ。おまえは気にせず見学に来い。いいな?」
「……わかった。でも、もしも部活の迷惑になりそうだったらちゃんと言ってね!」
「あぁ」
右京は微かに笑って頷いた。
悔しいけれど、右京にだいぶ助けられているな。
右京がいなかったらデブまっしぐらだっただろうし……。
「そういえばおまえ、さっき腕触ってたけど足の方が肉ついてきてるぞ。おまえは下半身から太るタイプだから気を付けろ」
「……」
それにしても、それにしても!言い方があるんじゃないのっ!?!?!!
太ってないもんと言いたかったけれど、確かに少し前にスキニーパンツを履いたらきつかった。
あれは洗濯して縮んだと思っていたのに……違ったのかな。
「……右京のばか」
やつあたりで肩を小さく叩くと、右京は棒読みで痛いと呟いた。
うぅ……むかつくむかつく!
でも正論だから何も言えないし結果的に陸上部の見学までさせてもらえそうだし感謝するしかない!!!
はぁ。陸上部見学で蒼先輩と話す機会があるかなぁ。
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