第13話
「今日の私も可愛いな……」
朝から鏡を見つめて改めてため息をついてしまう。
どの角度から見ても美しく可愛いなんて、すごい。
現実世界の私はどの角度で写真を撮ればマシに見えるのか必死になって探していたというのに。
「あ、右京だ」
ピンポンとチャイムが鳴り響き、慌てて玄関へと飛び出した。
右京と二人で登校するのにもすっかり慣れ、明里ちゃんたちもあまり冷やかしてこなくなった。
私と右京は冷やかしてどうこうなるような関係でないと分かったのだろう。
まぁ当然だけどね。私の好きな人は蒼先輩だし。
でも……右京って現実世界では主人公を差し置いて一番人気キャラだったんだよね。
確か作中でもモテる設定だったはずだけど、この世界でもそうなのかな。
「ねぇ、明里ちゃん、雪香ちゃん、右京ってモテるのかな?」
「蘭子ちゃん知らないの? 右京くん既に何人かに告白されているよ」
「えっ!?もうっ!?」
いやいやまだ入学してからそんなに経っていないでしょ!?
というか、こんなに美少女の私ですら告白された記憶がないんだけど……え、私になる前はあったのかな。
もしかして中身のヲタクっぷりがにじみ出ているのかな。なにそれ悲しい……。
「右京くん、すごくモテるから先輩とかから声かかっているみたい」
「えぇ……右京ってすごいのね。私なんて全然告白されないのに……」
「そりゃあ、蘭子ちゃんには王子様がいるからね」
「王子様ってまさか……」
「「右京くん」」
二人の綺麗なハモりに曖昧に微笑む。
あー……そういうことね。なるほど、傍から見れば右京が私の彼氏に見えていると。彼氏というか用心棒か。
「右京くん、素敵だよね。入学してすぐの宣戦布告、びっくりしたけど格好良かったもん」
「ほんとほんと。あんなの言われる蘭子ちゃんが羨ましいけど、蘭子ちゃんなら仕方ないかなぁとも思うよね」
「宣戦布告……?」
「えぇ、蘭子ちゃん覚えていないの?」
「こいつに話があるやつは俺を通せ!……って入学式のあと男子に囲まれてる蘭子ちゃんを見て右京くんが言い放ったんだよねぇ……あれは本当に少女漫画を読んでいるみたいだった」
あのクールキャラの右京がそんなことを……!?
というかそれ、完全に夢小説でありそうなパターンだわ……。話を聞いて私も少し良いなって思っちゃったし。
「右京くん、クールに見えて実はすごく優しいしね」
「あ、わかる。少し前に私も消しゴム忘れたんだけど、使えって言って貸してくれたり」
「ぶっきらぼうだけど優しいよね。誰にでも分け隔てなく接してくれるし」
「わかるー!」
この世界でも右京の人気は高いみたい。
「だから蘭子ちゃん、右京くんと仲良くね」
二人の見当違いな応援に返す言葉が見つからなくて「うーん」と曖昧な返事をしておいた。
それから一日を終え、右京と二人で肩を並べて歩く。
帰り道の夕焼けが綺麗だなぁと思いながら、ふと考える。
幼馴染ってだけでこんなに仲良くなるものなのかな?
私には幼馴染なんてものはないけれど、思い返せば中学生になって幼馴染だからって男女一緒に過ごす子はいなかったような気がする。
それはすぐに冷やかされるからってのは勿論あるけれど、お互いに大事なものが増えるから。友達とか、勉強とか、部活とかね。
なのにこんなにべったりしてくる右京って、いったい何を考えているんだろう。
「ねぇ右京。右京はどうして私の面倒をみてくれるの?」
「なんだよ、突然」
「いいから。入学式の時だってそう。みんなに「こいつに話があるやつは俺を通せ」なんて言ってさ」
さりげなく今日得た知識を使ってみる。
右京は訝しむ様子もなく、記憶を辿った。どうやら本当にあった出来事のようだ。
「そういう約束だからな」
「約束?」
「……覚えていないなら、いい」
どういう意味かと尋ねても右京は知らないの一点張りだった。
変なところで頑固なんだよね、右京は……。
「そういえば来週から部活に参加するから。帰りが遅くなる」
「入部したもんね。ねぇ、それって最後まで見学していちゃダメかな」
「見学期間内なら良いと思うが……つまらなくないか?」
「んーん。見ていたいの」
蒼先輩をずうっと見られるチャンスだしね。とは言えない。
「そうか。好きにしろ。……本当に好きなんだな」
ぼそっと呟く右京の声が誰に対してか分かったけれど、聞こえないふりをした。
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