第12話
陸上部へと着き、早々に右京が入部することを告げると元就くんは大喜びだった。
周りの先輩たちも「元就の弟が入部だって!?すっげぇ速いんだろうなぁ!」なんてはしゃいでいたけれど、"元就くんの弟"というフレーズは右京にとって禁句らしく言われる度に眉間にしわが寄っていた。怖いよー!
「なにを騒いでいるの?」
右京が囲まれて皆から質問攻めにあっていると、現れたのは蒼先輩だった。
うぅ……今日も格好良いなぁ。
「おう、蒼。俺の弟が入部することになったから、よろしくな!」
「なるほど。それでみんなして囲って話していたのか。それは良いけど、そろそろ戻らないと怒られるぞ」
「やべっ」
蒼先輩の一言で右京を囲っていた先輩たちがはけていく。
隣で右京がため息をつくのが分かった。
「ごめんね」
「えっ」
「騒がしくて。疲れさせちゃったかな。えぇと……名前は、」
「右京です。海若右京」
「右京ね、了解。海若だと元就と二人居てややこしいから、名前で呼んでいくけど良い?」
「はい。あの……」
「うん?」
「さっき、ありがとうございました。騒がしいのは苦手なので、助かりました」
「いえいえ。どちらかといえばこちらが悪いからね。あいつらすぐに騒ぐけれど、さっきのも単純に右京が入部するのが嬉しくて言い寄ってきただけだからあんまり悪く思わないでやってくれると嬉しいな。……なんて、身勝手かな?」
「そんなことないです。……ありがとうございます」
右京の言葉に先輩は静かににこっと微笑んだ。あぁ、素敵……!
やっぱり蒼先輩は大人びていて、頼りがいがあって、格好良いーーー!!!
そういえばアニメでは右京が蒼先輩に懐いているところからスタートしていたけれど、こういうやりとりが何度もあって少しずつ信頼していったのかな。
確かに元就くんじゃフォローしてくれなさそうだもんね……。
「えぇと……それで君も入部するのかな。元就の幼馴染さん?」
「あ、えっと……西條です。西條蘭子と言います」
「そっか、西條さん。西條さんは入部しないのかな?」
「まだ考え中なんです。興味はあるので今後も見学はしたいと思っているんですが、ご迷惑だったりしませんか……?」
「全然。もしなにか気になる種目とかあれば教えるから言ってね。……って、元就がいるなら大丈夫か」
「あ、えっと、でも、蒼先輩に教えてもらいたいですっ!」
せっかくのチャンスを逃してたまるものか、と食いつくと先輩はきょとんとしてしまった。
あぁ、しまった!これじゃ完全に痛い女だ……!
「元就くん、説明があまり上手じゃないので……蒼先輩に教えてもらう方がわかりやすいかな、って」
「そう言ってもらえるのは光栄だけど、元就もそんなに説明下手ではないと思うよ」
「そう……ですよね」
うぅ、完全に失敗してしまった。これじゃ身内を悪く言う嫌な女だ。
どうしよう。わりと本気で泣きそうだ……。
これは私の夢小説のはずなのに、蒼先輩は全然私のことを好きになってくれそうにない。
「あっ……もしかして元就だと聞きにくいとか、かな?」
「えっ?は、はい。そうなんです」
どういう意味か分からなかったけれど、とりあえず頷いてみる。
「なるほど。良い口実だと思うけれど、それじゃ身が入らないかもね。……うん、わかった。いいよ、俺でよければいつでも説明する」
「本当ですかっ!?」
「うん。なにかあったらいつでも言ってね。それじゃ」
なにが起こったのか分からないけれど、蒼先輩がいつでも説明してくれると言ってくれた……!
やったー!これで夢小説のようにいちゃいちゃする関係に一歩近づいたのでは!?
「あの先輩、良い人だな。鋭いし」
「うんうん、蒼先輩はすっごく良い人だよ~!」
ついつい浮かれて右京の言葉の意味を深く考えずに頷く。
実はこの時、蒼先輩は私が元就くんを好きで二人きりになると恥ずかしくて耐えられないから説明を頼んできたと勘違いしているんだけど……
そんなこと、私は知る由もなかった。
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