第11話

 右京を引っ張って運動場へと向かう途中で、何人もの男子に声をかけられた。

 簡単な挨拶ばかりだったけれど、そのどれもが自分に好意を持っていると分かり改めて自分の外見の魅力に気付かされる。


 超絶美少女だもんなぁ、今の私は。

 現実世界の私の半分ほどの太さしかないんじゃないかって思うくらい華奢な手足。

 真っ白な肌はマシュマロのように柔らかそうで、実際柔らかく触り心地は抜群。

 髪色は少しだけ茶色がかっていて、特に何もしていないのにさらさらと風が吹けばなびく。

 どんな服だって着こなせる自信があるし、都会を歩けばきっと芸能事務所からのスカウトも多いだろう。


 周りが褒めてくれたり好意的に接してくれるのは嬉しいけれど、同時に少しだけ寂しい。

 現実世界の私は、こんな簡単に人から好意を向けられたことはなかった。

 みんなに嫌われるようなこともなかったけれど、歩いているだけで人が好きになってくれるような美味しい話は一つもなくて。


 失恋だって、何度もしている。


 だけど、もしも現実の私がこれくらい可愛かったら違っていたのだろうか。

 そんなことを考え出して首を小さく横に振った。考えたって仕方のないことだ。

 それにもう過ぎたことだから、悔やんだって何も変わらない。


「気分でも悪いのか」


 突然の右京の問いかけにきょとんとしていると「なんか、思いつめたみたいな顔をしていたから」と言われてしまった。

 そんなに深刻な顔をしていたかな……。


「ううん、もうどうしようもないことだから。心配してくれてありがとう」

「……蘭子は、陸上部には入らないのか」

「えっ。うーん……入りたいけど、そうね……考え中かな」


 本当はマネージャーになりたいんだけど、周りの反応を見るに冗談でなく客寄せパンダになりそう。

 そうなったら主人公のあいつとかも入部してこなくなる可能性があるし、そうなった場合この部の成長はどうなってしまうか分からない。

 ここは出来る限り私の知っているアニメの世界と同じように動くようしないと、あとで私が困ることになりそう。

 ……とはいえ、部活に入らないで蒼先輩と距離を縮めるのって中々難しいんだけどね。


「なにか入りたくない理由でもあるのか」

「うーん……客寄せパンダになりそうで……」

「なんだ、本気でそんなこと気にしていたのか。別に客寄せパンダになっても良いんじゃないか?部員が増えればその分、兄さんも喜ぶだろう」

「でも……言い方は悪いけれど、女子目当てで部に入るような浮ついた人が陸上部にとってプラスになれるほど頑張るとも思えない」

「なるほどな。まぁ確かにそれも一理あるかもしれないが……好きな女がいるから頑張ろうと思うやつもいるんじゃないのか」

「そういうものかなぁ……。でも、みんな私の見た目しか知らないんだよ?それなのに好きもなにもないと思う。本当にパンダと一緒だよ。可愛いってだけで見に来るなんてさ」


 話しているうちに美少女すぎるのも大変なんだなと思えてきた。

 現実の私はこんな風に周りに影響を与えることなんて一ミリもなかったから、自由に部活を選んでいた。

 だけど見た目が美しいってだけで、こんなに周りについて配慮しなくちゃいけないんだ。

 美しいって……罪だな。うん、言いたかっただけです。


「……わかった」

「右京?」

「じゃあ、俺が入ってやる。陸上部」


 そういえば右京は陸上部に入りたくないとか言っていたっけ。

 アニメでは普通に陸上部のエースとして活躍していたから、右京が部活に入るのは当たり前のことだと思う反面、どうして突然入部する気になったのか不思議に思う部分もある。


「そうしたら、兄さんに会いに来やすくなるだろう。おまえは少し様子見して大丈夫そうなら半年くらいして、周りが部活に慣れた頃に入部してこい。さすがにその頃にはおまえと一緒の部活になりたいって理由だけで陸上部に転部するやつもそういないだろ」

「右京……。そこまで考えてくれて嬉しい。ありがとう」


 一つだけ訂正するなら私が好きなのは元就くんではなく蒼先輩なんだけど……どちらにせよ陸上部に接触しないといけない点では一緒だから言わなくても良いよね。


「でも右京が陸上部入ってくれるのは嬉しいな。右京の走る姿が見られるんだね」

「……おまえが言っていたからな」

「え、なに?」

「なんでもない。行くぞ」


 今度は右京に引っ張られ、歩き出した。

 右京も陸上部に入部するし、これで主人公のライバルは大丈夫!


 実は、まだまだ気になっていることがあるんだけどどうやって確認しようかなぁ……。

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