第9話
「蘭子、蘭子ってば。おい、聞いているか?」
「えっ、あ、ごめん」
「……」
今日も海若家で晩御飯をご馳走になり、右京の部屋で時間を潰している。
年頃の男女が二人で密室にいるのはいかがなものかと思うけれど、右京のお母さんは「蘭子ちゃんがお嫁さんにきてくれたらいいのに~」なんてどこまで本音か分からないことを顔を合わせる度に言ってくるから、それだけ信頼してもらえてるということだろう。
「ごめんってば。なに?」
話を聞きそびれたせいか、右京はあからさまに不機嫌そうな顔でこちらを見つめている。
「……もういい」
あらら。拗ねちゃった?
今日、蒼先輩に会ってからというものの、私の頭は先輩でいっぱいになってしまったから右京の話が耳に入らないのも許してほしい。
先輩……格好良かったなぁ。
にこりと微笑む先輩はそつがなくて、思わず見とれてしまう魅力があった。
あれでまだ中学二年生なのだから恐ろしい。
既に大人と呼んでも支障ないレベルで落ち着きを放っているのに、あれが大人になったら一体どうなってしまうのだろう。
「……そんなに嬉しかったのか」
「えっ、なにが?」
「兄さんに、頭撫でられたのが」
「あぁ~~」
「なんだよ、その間の抜けた声」
「いや、えっと……」
そっか。右京は私が元就くんに頭を撫でられたのが嬉しすぎて放心状態になっていると思っているのね。
確かに頭を撫でられたのは嬉しかったけれど、正直今言われるまで忘れていたよ……。
それくらい蒼先輩のインパクトは強かったのだ。
「蘭子?なんだよ、はっきり言え」
「いや……えっと、説明が難しいというか」
「なんだそれ。……まぁいい」
言葉を濁らせる私を見逃してくれたのか、それとも自分の都合なのかは分からないけれど右京は机へと向き合った。
「宿題?」
「あぁ。蘭子も一緒にやるか?」
「んー。そうだね、やろうかな」
ご機嫌ななめの右京を置いて帰るのは得策ではないので、とりあえず宿題だけやって帰ろう。
数学と英語の宿題が出ていたはずだ。
数学は問題集を一ページ。
英語は書き取りだけだから、すぐに終わるかな。
「……蘭子」
「なに?」
「おまえさ、最近なんかあった?」
「なんかって?」
「いや……別に、なにもないなら良いんだ」
右京の言いたいことが分からないけれど……もしかして、私怪しまれてるのかな?
そうだよね。この世界の私(夢小説ヒロイン)がどんな性格だったか分からないけれど……少なくとも私みたいにオタクじゃないし、言動も私より女の子らしかったはずだ。
幼なじみが突然変わってしまったら、誰だって怖い。
「大丈夫よ、右京。心配してくれてありがとう」
少しでも女の子らしく振る舞おうと丁寧な言葉遣いで微笑むと「なんだそれ」と不審がられた。
せっかく右京のためにしたのに……ひどいよ右京……。
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