雨やどり

美汐

雨やどり



 雨が好きなものもいれば、嫌いなものもいる。

 ぼくはどちらかというと雨が好き。彼女はどうだかわからないけど。

 彼女はいつも、とても美しい衣装を身にまとっている。ふんわりと柔らかそうな紫色のドレス。

 ぼくはそんな艶やかな彼女に一瞬で恋に落ちた。

 彼女が一番美しく見えるのは、朝の光を浴びたとき。キラキラと輝いて、とても素敵なんだ。

 今日は雨の朝。いつも輝かしい朝日が好きなきみには、もしかしたら憂鬱な朝かもしれない。そう思いながら、ぼくは彼女に会いに行った。

「やあ、たくさん雨が降ってきたね。きみの傘に入っても?」

「ええ。いいわよ」

 彼女は緑色の傘をぼくの頭の上で広げてくれた。辺りは雨の音で満ちている。景色は白く煙り、晴れの日とはまた違った風情がある。

 ぼくは彼女に訊ねてみる。

「ねえ、きみは雨が好き?」

 すると彼女は悩んだ様子で言った。

「そうねぇ。晴れの日のが、わたしの衣装もきれいに見えるし、顔も空に向けていられるわ」

 やはりそうかとぼくは少しがっかりする。ぼくの好みとは違うんだろうなとは思っていたけど、好きな相手と意見が割れると、なんとなく寂しい気持ちになる。

「でも、雨の日も必要なの。雨の日がないと、わたしも疲れちゃうわ。たまには雨が降らないと、晴れても元気が出ないもの。だから、やっぱり雨も好き」

 その言葉を聞いて、ぼくはぱあっと心が明るい色彩になった。

「そう。ぼくもだよ」

 ぼくが彼女を見上げると、彼女は雨の粒を滴らせて美しい顔を見せていた。

「そういうあなたはきっと雨が好きなのよね?」

 彼女の問いに、ぼくはうなずいた。

「うん。雨は空を洗い流し、大地を潤す。冷たい雨を浴びていると、生きてるな~って感じるんだ」

「そう。きっとそうなのだとわたしも思ってたわ。あなたは雨がよく似合っているもの」

 それを聞いて、ぼくは飛び上がって喜んだ。

 そして雨のなかに飛び出ると、得意のダンスを披露した。

「雨は~ぼくの~大好きなもの~。雨よりもっと~好きなのは~きみくらいのものさ~!」

 はしゃいでつい、ぼくは彼女に告白の歌を歌ってしまった。照れくさくなり、ぼくは彼女の傘の下に戻る。

「うふふ。素敵なダンスと歌をありがとう。こんな雨の日だったら、いつでも大歓迎よ」

 彼女が喜んでくれたので、ぼくはほっとした。

「良かった。きみが雨の日を好きになってくれて」

 それからぼくはドキドキしながら彼女に思いきって訊ねた。

「さっきの歌のことなんだけど、迷惑じゃないかな……?」

 すると彼女は美しく微笑んで答えた。

「ええ。わたしもあなたが好きよ」

「本当かい!」

 ぼくは思わず彼女の紫色のドレスに飛び付いた。ふんわり優しくて、いい香りがした。

「もう。重いわ。カエルさん」

「だってアサガオさん。まさかきみもぼくが好きだったなんて、嬉しすぎて!」

「わたしもとっても嬉しいわ」

 ぼくは夢みたいな幸せな気持ちを、胸に抱き締めた。

「あら、雨がやんだみたいよ」

 アサガオさんが言う通り、空を見上げると、いつの間にか雨はやみ、代わりに雲間から太陽が顔を出し始めていた。

 日差しが雨の景色に彩りを与えていく。露を滴らせる草木や、空を映す鏡のような水溜まり。キラキラと世界が輝いて、ぼくたちを祝福してくれているようだった。

「やっぱり晴れもいいものだね」

 ぼくが振り返って彼女を見ると、ドレスについた露を宝石のように輝かせて嬉しそうな顔をしていた。

〈おわり〉

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雨やどり 美汐 @misio

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