気がつけば、おマサさん
私はもともとドライな性分で、通過儀礼や季節の行事を楽しんだりすることもなく、平常心で日々を過ごすタイプでした。
成人式の日はコンビニでアルバイトをし、自分の誕生日も忘れる始末。クリスマスも年末年始も普段通り。
しかし、杉山家の面々は、私とは正反対なのです。
義妹は誕生日などの記念日をきっちり祝い、夫は季節の行事を楽しみます。姑は息子たちの百日のお祝いなどの通過儀礼になると張り切って支度します。
杉山家に嫁いでも、私は彼らほど積極的にはなれません。けれど、年末年始に一族が顔を合わせると、賑やかなのもいいなと思えるのです。
以前は淡々と過ごしてきた年越しですが、杉山家では食べて飲んで話して大賑わい。もっとも、義妹がくると必然的に賑わうのですが。
「飲み過ぎだがね!」
「なんも、この一杯しか飲んでねぇよ」
「さっき台所で隠れてどぼどぼ注いでたくせによ。見てたんだからね!」
娘に叱られた舅はぺろりと舌を出すと、話を逸らすため私の息子を膝に抱き、テレビ画面を指差します。ちょうど、某アニメキャラが登場したところでした。
「ほうら、ハットリくんだよ」
すると、間髪いれず義妹一家からツッコミが。
「じいちゃん、あれ、乱太郎だよ!」
「適当なこと言いやがって。孫に嘘教えんじゃねぇ!」
思い込みが激しいのは杉山家の特色。適当なことを教えるのはおマサさん譲り。舅を一喝する義妹は顔も毒舌もおマサさん生き写し。
そんな彼らの食卓を囲むコロコロ変わる表情、飛び交う大声と笑いをぼんやり眺めていると、ふと隣におマサさんがいるような気がします。
常識と非常識の混沌。強すぎる個性。だけど、どこか憎めない。おマサさんはそういう人だったのだと、彼らを見ているだけでわかります。おマサさんの欠片が顔に、背中に、声に、そして思い出に散らばっているからです。
そして今更のように気がつくのです。おマサさんがいたからこその杉山家なのだと。
故人である彼女自身のエピソードが新たに生まれることはなくても、思い出の海に沈んでいるとんでもない話がひょっこり浮かんでくるかもしれません。
おマサさんが眠る海を越えて進む杉山家の船はいつだって逞しく賑やかなのでした。
気がつけば、おマサさん 深水千世 @fukamifromestar
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます