いくらで売れるかな

 舅には、大の骨董好きという一面があります。長年の収集の成果で、家の中は奇妙な骨董品だらけです。


 どこから買ってきたのかわからない埴輪、元内閣総理大臣の書、目がチカチカするほど派手な大皿や花瓶。私は目利きではないので、その価値がさっぱりわかりません。


 姑も「どうせ全部ガラクタだよ」と顔をしかめます。本人は大事に扱うけれど、家人からは冷たい目で見られているようです。あらら、某鑑定番組でよく見かけるシチュエーションではありませんか。


「死んだら全部売っていいから」


 姑や夫からそう言われても、舅からその言葉を聞いたことはありません。

 いざ売ろうとしても、埴輪を欲しがる人などいるのか、はなはだ疑問です。せめて元総理大臣の書くらいは少し高値で売れてほしいと願う嫁です。


 売らずにそのまま飾っておけばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、どうも舅の趣味とは合わないようです。


 今年の夏、舅は杉山家の玄関に大きな浮世絵を飾りました。


「へぇ、新しいのを飾ったの?」


 そう思ってよく見てみると、女性が上半身裸で胸を露わにし、縁側で爪切りをしている絵なのです。


「これは、もしや『あぶな絵』というものでは?」


 浮世絵には疎いのですが、浮世絵用語で通常よりも肉体を露わにしたものをそう呼ぶのだそうです。春画寄りの作品といいますか、裸体だけではなく、爪切りや髪洗いなどをしている作品も含むのだとか。これを玄関に堂々と出していいのでしょうか? 


 でも、何故でしょう、この浮世絵に言いようもない既視感があるのです。

 首を傾げた途端、「ああ」と声を上げてしまいました。


「そうか、おマサさんだ」


 私は実際に見ていないのですが、胸をぺろんと出したまま、夫の友人を玄関で招き入れたおマサさんと見事にリンクしたのです。


 ちょっと艶かしい浮世絵があるんじゃない。おマサさんがいると思えばいいんだ。そう思うと妙に納得し、口をつぐんだのでした。

 きっと、舅をはじめとした杉山家の人々には胸を出した女性が玄関にいることが無意識に懐かしいのかもしれないと思うことにしました。


 それにしても、この浮世絵、いくらで売れるのでしょうね。

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