第45話 エンドロール
朝が来た。部屋の中に入り込んでくる朝日が、まだ眠たい頭には少し痛い。夜中あれだけ降っていた雪は、もうとっくに上がっていたらしい。空には雪雲なんて面影すらも残っていない。
「ん……、」
目を擦った瞬間に、昨日のことが蘇ってくる。
『ロケット見つかったよ、今から会える?』
『何であたしじゃ駄目だったの?』
『
『この間、
あぁ、もう。いろんなこと言われ過ぎてちょっとうざかった。でも、たぶんそのどれもが、きっと今のわたしの中に生まれつつある想いに端を発するものなんだろうな、なんて思うと……ちょっとそれを大事にしようかな、なんて思ったりもして。
あー、それにしてもさ。
意識して声に出して「あー」と言ってみるけど、感情治まらない。
改めて向かい合ってみると、ちょっとこれすごい怖いんだけど。改めて、
『卯月さんはきっと、風香さんのことが――』
その続きを聞きたくなくて、思わず打ち切ってしまったけど。あー、もう。うん。認めるしかないか。鏡の前のわたしも、お酒のせいではないだろう赤らんだ顔で同意してきている。
ううん、むしろ「やっとか」とか思ってるのかな?
わたしは、風香ちゃんのことがまだ好きだ。
風香ちゃんのことを想うだけで胸の中が苦しくなるし、それと同時に芽生える温かい気持ちは、どこか心地よい。その行き場所にはたぶん、わたしは辿り着けないけれど。
それだけ思うと、虚しいような気持ちになるけれど。
きっと、得るものはそれだけじゃないのかも知れない。
ずっと昔。
風香ちゃんが泣いている姿を見て、「ずっと傍で笑わせてあげたい」って思ったのがきっかけで始まったこの気持ちは、本物なんだから それが報われないって知って、好きでもない人に愛されることで気を紛らわせようとして、そんなことをしてる自分が嫌になって、違う誰かを好きになろうといろんな人といろんなことをして、でもその全部が結局失敗で。
その理由に、つい昨日気付いて。
「うーわ……」
あー、顔から火が出るってホントなのかも。
子どもの頃の想いをずっと胸に秘めて、なんて柄じゃない。夢見る乙女かよ。
わたしはもっと黒ずんでしまっているし、間違っても夢見る乙女なんてキャラではない。どう考えても。
「……よし」
だから、夢なんて見ない。
勝手な夢の中で、都合よくわたしだけを悪者になんてしてあげない。悲劇のヒロインになるために当て馬役を自ら引き受けるほど、わたしだってお人よしじゃないから。
お守り代わりのロケットは、久々に着けると首がひんやりして。
「あっ、もしもし風香ちゃん? このかだよ~。あのさ、明日さ……」
眠たげな愛しい声に、胸を高鳴らせながら。
わたしは太陽の光でキラキラ輝く朝の道を歩き出した。
気まぐれな神様は誰にでも微笑むし、誰にも微笑まない 遊月奈喩多 @vAN1-SHing
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