第17話 押しの強さとか、マジ、ぱねぇっすね。(滝汗)
迎えに来たマイクロバスに乗って、日本に帰って参りました。
結局、実時間三時間強の異世界旅行でした。
ものすごーく疲れた三時間強、でもまだ昼を過ぎた時間。
「本当に、本当にお疲れさまでした!」
「……本当に疲れました」
バスを降りて、私達は添乗員さんと別れた。
「これに懲りずに、また参加してくださいね~」
するかよ!!
「さて、と。じゃぁ、行くか」
さり気なく私の荷物を持ったヒトセさんが、そう言って歩き出す。
「え、と。あの、荷物。私、電車なので逆――」
「俺は車だから大丈夫」
んんん?
「送ってく」
ん? そ、そうか、送ってくれるのか。
押し込むように、黒いセダンに乗せられた。カーナビに位置情報を登録させられ、途中有名菓子店に寄ってから快適なドライブを楽しみました。
この菓子折を包んでもらっている時点で、なんとなく、なんとなくだけど、今後の展開が読めてきましたが。もし違ったら恥ずかしいので、聞けなかった。ヘタレですとも私は。
――そして今、我が家の居間にて、休日を謳歌していた父と母を前に、ヒトセさんと並んで正座しております。
「恋奈さんとおつきあいさせて頂いてます、
ここで、座布団を降りて、ヒトセさんが深く頭をさげた。
Oh……土下座。(既視感)
思わず私も彼の隣で頭をさげた。
「娘さんとの結婚を、お許しいただきたく」
「う……
呻いた父の声に「欧米かっ!」という母の突っこみが入った。ベシッという音も聞こえたから、裏拳も入ったのだろう。
「頭をあげてくださいよ」
困ったような色の父の言葉に、私もヒトセさんも頭をあげる。
案の定、眉をハの字にした父と母が苦笑いしてる。だよね、こんな堅苦しい挨拶本気で苦手だもんね、申し訳ない二人とも、彼の暴走を止めれなかった私を許して欲しい。
「もう成人している娘ですから、本人がよければ、僕達はなにも言いません。こうやって丁寧にしてくれるのはね、娘を大事にしてくれているようでありがたくはあるんだけどね、そんな堅苦しくなくていーよー。僕ら、家族になるんでしょ?」
というなんとも気の抜けた父の言葉で砕け散った固い雰囲気。
その後、手土産のお菓子を堪能しているウチに、事の元凶である姉が帰宅。
「妹よ!」
「なんだ、姉よ」
立ち上がり、お互いウルトラマンのファイティングポーズのような格好をして向かい合う。
ヒトセさんは驚いたようだが、両親が「いつもの事なんで、気にしないでね」とお茶のおかわりをいれている。
「彼はコレか?」
「Yes、
真顔で親指を立てた姉に頷き、私も親指を立てる。
「そうか! グッジョブ!」
突然満面の笑顔になった姉が、ガバッと私を抱きしめた。
「いやぁ、あのツアー、どうしてもアンタに行かせたくてしょうがなかったんだけど、これだったか! ワンダホーな我が六感だわ! 幸せになれよこんちくしょー」
私の背中をバンバン叩いて喜ぶ姉に、胸のなかが温かくなる。
「うん。ありがとう、お姉ちゃん」
その後、話の流れでツアーで知り合ったのだと伝えたら。今日会ったばかりで決めていいのかと、ちょっとだけ常識的な心配をした母に、実は異世界で半年ばかり一緒に生活してましたと暴露した。
「その話、詳しく教えてもらおうか」
ゲンドウポーズで目を光らせた姉の眼光にたじろぐ。
凄くリア充だと思っていた姉は、実は私の蔵書をほぼ読破しており、現時点でがっつり異世界マニアになっていた。
その姉が、その後また募集を掛けられていた『日帰り異世界ツアー』に参加し、現地の男性と恋に落ちて向こうに住むことになるのは、また別の話。
そして、こちらの世界で、ヒトセさんの厄介なご親戚の皆様に、嫌がらせのみならず、命を脅かされるような事態にあわされるに至った結果。
ヒトセさんと私は、あの日のあれやこれやでできていたお腹の子共々、この世界を離れる決断をしました。
「ご迷惑をお掛けします」
「いえいえ! こっちは大歓迎ですから! ウチの神様も大喜びですよ!」
すっかり顔なじみになった添乗員さんと、マイクロバスの運転手さん。
「いやぁ、異世界に行けるなんて夢のようだねぇ」
「そうね、わっくわくするわ! 添乗員さん、どうぞよろしくお願い致しますね」
そう言いながらにこにこ顔の両親もマイクロバスに乗り込んだ。
「……ちょっと待って、なんでお母さん達まで」
「じゃぁーん!」
そう言って上着の前を開いた母の胸には、見覚えのあるネームプレートが。
「異世界ツアーに当選しました!」
「大丈夫だよ、このツアーって日帰りだからねぇ」
ヒトセさんと私は揃って添乗員さんを見る。
「ふ、不正はないですよ! ただ……応募なさったのが、先日里帰りなさってた、テンナさんで」
Oh……。
両親が異世界移住する日も、きっと遠くないな。
異世界旅行は日帰りで 会庭初春 @hatuharu
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