視点や距離感、モノと心情の描写が絶妙でした。曇り空や雨音の運ぶ湿った空気、繊細故に厳かにも映る彼らの母屋、地面や窓辺の一欠片。幸福や充実とは対照にある要素が儚くも確かにそこにあるように感じるのです。前半は姉に、後半は弟に、すっと引き込まれた自分の視点が二人に自然と重なります。それは物語の中で鮮やかに差す色味にも、彼らが見る影にも。姉にも弟にも言い分があり世界があります。同じように窮屈だったり遠かったりする世界があります。
物語の鍵となるいくつかの道具を彼らが握った時には私も手に力が入りました。触れる者の温度があるのです。身体や視界に赤色が見えた時には少なからず痛みや想いが伝わってきました。現実にあるものだけが傷を生めるとは限りません。
姉弟の見ている“それぞれの反対側”は、相反するようでありながら寄り添うように一つの方向へ向かって行きます。私には誰のせいにもできませんでした。昔から弟が読んでいた絵本の表紙を“私自身が”手に取った時、既に私は二人のどちらからも視点が離れていました。二人の最後を、あるいは物語の最初を、隣ですすり泣く誰かと一緒に立ち尽くして見ていました。
普段自分では中々手に取らないジャンルでしたが、タグや分類で選んではダメだと改めて思いました。物語の読後感は必ずしも今自分が持っている言葉で表せるとは思いません。えてして複雑に編み込まれて濃密で、照らすのか影をつくるのかの対比で片付けることもできないと思うのです。この物語のそれも私にとても貴重な何かを残していきました。美しい、だけではとても足りない感覚です。
ぜひこの物語を見届けて、ご自身から湧き上がる最初の感覚に耳を傾けてみて下さい。
魔女と呼ばれ忌諱される姉エレクトラ。学校では毎日いじめられている、その弟のアルベール。
物語はこの二人を中心に進んでいきます。
この姉弟の家庭は決して幸福なものではなく、生育環境は平穏から程遠いものです。
そんな二人は。
裏庭の記憶を心のよりどころとして生活していました。ひっそりと、慎み深く、目立たぬように。
しかし。
この二人は徐々に、歯車を狂わせていくのです。
心理学者のアルフレッド・アドラーは、『人は過去に縛られているわけではない。あなたの描く未来があなたを規定している』と言っていました。
私にはこの二人が、未来を夢見ているように思っていました。その思い描いた未来に向かってはばたくのだと。
しかし。
ベクトルは、逆を向いていたのかもしれません。
この二人が執着し、常に見つめていたのは、未来ではなく……。
最終話のこの姉弟の父親が彼らの為に作った童話が効果的に使用されています。
是非、この姉弟のお話をご一読ください。