第25話

「何してるのそんな所で」


アルネットに言われるがまま、僕はギルド屋根に座り込んでいる黒霧さんの元に来た。雰囲気は暗くは見えないが、空を仰ぎぼーっとしている様子だ。

やはりギルドは1階立てで以前対面した場は魔法で作り出した空間なのだろう。


僕が話しかけても返事一つしない彼女。気づいているだろうが、ずっと上を見たまま。僕も黙ったまま、彼女の横に座る。


「ねえ、勝ったんだよ?喜べばいいじゃん」


返事はない、それどころかこちらすら向いてくれない。日も暮れ街灯だけが光を放つ中冷え込んだ風が僕たちを苛めるかのように正面から吹いてくる。


「わっ」


強く吹いた風の影響で彼女の細く透き通るような髪がかき上げられると、黒霧さんの黒く吸い込まれる髪の下に白い色の何かが見えた。


「黒霧さんって、もともと髪白いの?」


僕はパッと思いついたことを口に出す、この重い空気の中、戦いの影響で落ち込んでいるなら悪いと咄嗟に話題を変えようとしただけだったけれどそれが大きな影響を及ぼした。


「アルビノって知ってる?」


「知らない。」


「そうよね、『神様』なんて所詮その程度の知識。そんなものだね」


急に、口下手になった黒霧だったがいつに増して敵対心が大きく増していて、僕の顔を踏みしめるかのように睨むのだった。殺意とはまた違う明らかな嫌悪の感情。


「君、神様なんだっけ。悪いけれど僕は神様は好きじゃないんだ。」


「みたいだね」


その態度を見たら嫌でもわかるよ。


「今は魔術で肌の色を変えているし、髪も染めているけれど、元々は真っ白だった。だからなのか周りからは異端児扱い。いじめられていたんだ」


僕は黙って聞いている。人間世界の理不尽さはアリアの時で理解していた。

戦争のために生まれる子供や自分と違うだけで仲間外れにされる社会、そんな人間ばかりならいらないよね、ただアリアのような人間もいるから僕はこの世界を旅する事を決めたんだ。


「それに、僕には親が居なかった。気づいた頃には街の真ん中に一人...確か6歳くらいだったかな。その頃からだね、神様なんて居ないんだって思った。だけど実際は居たんだね。こうして目の前に」


あはは、と乾いた笑い声をあげる彼女は、作り笑顔を前面に僕に語ってくれた。

生きるために、強くならなきゃいけなかったこと。女の子と思われいじめられない為に一人称を僕にしたこと。...初めて告白された相手が神様で既婚者という謎の境遇に混乱してここまで来たこと。


「言われた時はびっくりしたけど、一周回って冷静になったよ。あんな空気で帰ろうと思っても帰れないしちょっと困ってたところにラークが来た。ていうかラークは子供じゃないか。神の世界では子供でも結婚するのか。」


「子供じゃない。年齢は黒霧さんより上だよ」


「中身は私よりからっぽ...あ、僕よりもね」


「言い直さなくてもいいと思う、私って言ってる方がかわいいよ」


「そうかな。」


「うん、せめて『神様』の前くらいは素を出してもばちは当たらないよ。」


そう、神の前では全てをさらけ出してもいいのだ。人間の業くらい受け止めれなくて何が神だ。


「じゃあ...そうするっ」


その瞬間初めて、彼女の本当の笑顔を見た、作り笑顔のように整った表情はしていないけれど、くしゃっと丸めたような照れくささが人間らしい。

そしてまた、彼女が光始める。肌の色、髪の色まで変色し始めて白く、何も染まっていない純白、そんな雰囲気を漂わせている。


「気持ち悪いかな。」


気持ち悪い、なんてことは全くない。むしろ人間の世界の価値観だと美人なのだろう。他の人間達とは雰囲気すらも違う。顔も整っているし女神の加護を受けているかのような容姿だ。それに、ここでやっと。僕も確信した。


「いや、全然気持ち悪くなくて、キレイだ。ていうか驚いたよ」


ああ、驚いた。初対面でも理解していたつもりだったんだけれどこうして見るとあまりに似ている。いや似すぎていて疑わないほうが不自然な位、瓜二つだった。


「そん...な...久しぶりにこんな姿になったから。自分でも...恥ずかしい...キレイ...なんて初めて言ってもらったかも...」


白い肌、整った顔、その頬を赤く染めながら彼女は下を向き透明感のある髪をいじって照れ隠しをしていた。

冷たい風は止まない。が、肌に触れても気づかないほどに先とは違い、『空気が温まっている』。


「ねえ、私を好きな理由は...一目ぼれだっけ...その...こんな私で良かったら。」


リンゴのように顔を真っ赤にさせながらモゴモゴと小声で囁く彼女はさっきまで戦っていた人とは別人のようだった。良かったらというのは付き合ってもいいよって意味なんだろうか。少し僕が悩んでしまったからか、慌てている。


「あ!いや!嫌ならいいんだ!で...でも私のタイプって言うか、その...強いし...子供だけどカッコいいし、追っかけて来てくれるとは思ってなかった。でも私...誰とも付き合った事なくて...戦いばっかりで...」


ぶつぶつと独り言を呟いて、妄想に更けているのか考えを募らせているのか笑ったり泣きそうになったり表情が豊かです。ちなみに追っかけたのはアルネットのお蔭なんです。


「嫌じゃないよ。結婚してもいいなーって思えた人間は初めて。」


「...うんっ。じゃあつき...あおう...か。」


凄く可愛いなぁ。まさにスノウを素直にさせた感じ。口元を抑えながら真っ赤な顔をこちらに向けているけれど、目線が逸れてるし、笑みがこぼれてる。

可愛い。僕がこんな気持ちになるなんて黒霧さんは特別だ。


「いや、やめときます。」


「えっ」


「だって多分、いや絶対。黒霧さん僕とスノウの娘だし。」


「えっ?」


「僕が、人間になったから浮気にならないとしても、娘と結婚は出来ないや」


「え」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水神ラークの旅 ika男 @ika020202

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ