繰り返しの永遠

塩沼 哲(しおぬま てつ)

第1話(完結)

第一章


 始まった。





第二章


 また?





第三章


 3日目だぜ。





第四章


 同じことを4回とか・・・ あり得なくない?





第十三章


 いやまじで、いつまで続くの?





第二十ー章


 3週間経ったとか?





第六十七章


 毎日同じことの繰り返しだね。





第八十六章


 2億回とか言ってなかった?





第八十七章


 いや、それはないでしょ。





第九十二章


 ・・・





第百二十六章


 いや、あるのかも・・・





第二百五十二章


 まじであるのかも・・・





第三百六十四章


 カウンターの数字が364だね・・・





第三百六十五章


 今日で1年か・・・





第三百六十六章


 あ、うるう歳だった。





第三百七十章


 ・・・





第三百八十四章


 カウンターが左側にもあるんだよね。





第三百八十五章


 少し遠くて、数字が見えにくいけれど、





第三百八十六章


 初日に見た男のカウンターだ。





第三百八十七章


 そう、男がいたんだよ。





第三百八十八章


 2億回とか言っていた男。





第三百八十九章


 この世界には俺を含めてふたりしかいないようだ。





第三百九十章


 カウンターもふたつしか見えない。





第三百九十一章


 彼はどこに行った?





第三百九十七章


 ・・・





第四百七十三章


 でも本当に2億回?





第五百六十一章


 いやいやいや、





第五百六十二章


 いやいやいやいやいや、





第八百二十七章


 ・・・





第八百八十八章


 ・・・





第九百四十三章


 そろそろ誰かが・・・





第九百四十四章


 「終了!」って言ってくれるはず!!





第九百四十五章


 あの男しかいないけれど・・・





第二千五百七十五章


 ・・・





第三千七百五十二章


 ・・・





第四千六百五十五章


 ・・・





第七千三百五十章


 何年経った?





第七千三百五十一章


 カウンターは、7,351 か・・・





第七千三百五十二章


 20年?





第七千三百五十三章


 20年かよ!!





第二万七千九百二十五章


 ・・・





第四万九千七百七十六章


 ・・・





第十五万七千二百七十二章


 あれから何年が過ぎた?





第三十五万七千六十二章


 ・・・





第六十六万七千三百五十四章


 気が遠くなるほどの長い時間を過ごしてきた気がする・・・





第三百五十七万五千八百四十二章


 本当の本当に2億回なんだろうか・・・





第八百七十九万五千七百二十六章


 ・・・





第二千三百六十五万一千七百五十三章


 ・・・





第五千六十二万七千七百六十一章


 ・・・





第八千六十五万一千五百二十八章


 更にまた果てしない時間を過ごしてきたような・・・





第九千九百五十万章


 ついに9千9百50万回を超えたぜ。





第九千九百五十万一章


 もし2億回ならば、





第九千九百五十万二章


 もうすぐ半分の1億回だ・・・





第九千九百五十万三章章


 しかし、そこまであと何年かかるのだろうか・・・





第九千九百九十七万二千五百六十二章


 ・・・





第一億章


 ついに1億回まできた。





第一億一章


 あの時から821年もかかったとはね・・ ・





第一億二章


 最初の1回目を始めたのは・・・





第一億三章


 27万年以上前か。





第一億四章


 27万年!!!!!





第一億五章


 遠い記憶・・・





第一億七百五十三章


 ・・・





第一億ー千六百五万二千章


 なぜ俺は生きているんだろう。





第一億二千七百万五百六十二章


 地球ってまだあるのかな。





第一億二千三百四十五万六千七百八十九章


 カウンターが123456789だね・・・





第一億二千三百四十五万六千七百九十章


 ということは既に33万8千年が過ぎたということか。





第一億二千三百四十五万六千七百九十一章


 意外と冷静な自分に気付く。





第一億三千五百二十六万七百六章


 ・・・





第一億四千六百一万七百七十三章


 考える時間はたくさんある。





第一億四千六百一万七百七十六章


 この世界ってなんだろう。





第一億四千六百一万七百七十七章


 この宇宙ってなんだろう。





第一億四千七百一万八百九十一章


 考えてみるか。





第一億四千八百七十五万九百七十三章


 ・・・





第一億五千七百二十三万五千二百六十七章


 ・・・





第一億五千七百五十六万二百八十五章


 考え始めてから、





第一億五千七百五十六万二百八十六章


 2万8千900年。





第一億五千八百二十三万五千二百六十七章


 いくつかのことが分かってきた。





第一億五千八百二十三万五千二百六十八章


 自分がなぜ生まれてきたのか。





第一億五千八百二十三万五千二百六十九章


 自分がなぜ生きているのか。





第一億五千八百二十三万五千二百七十章


 この世界の成り立ち。





第一億五千八百二十三万五千二百七十一章


 この宇宙の成り立ち。





第一億五千八百二十三万五千二百七十二章


 考える時間はまだ山ほどある・・ ・





一億五千八百二十三万五千二百七十三章


 もう少し考えてみよう。





第一億五千八百二十三万七千三百六章


 ・・・





第一億五千八百二十四万七千五百八十二章


 ・・・





第一億六千六百七十五万二千四百七十五章


 あと少し・・・





第一億六千六百八十七万五千二百七十六章


 あと少しで宇宙を理解できそうな気がする・・・





第一億六千九百八十五万三千七百二十一章


 ビッグバンという特異点をどう考えればいい?





第一億七千二百六十万三千五百五十五章


 ああ・・・





第一億七千二百六十万三千五百五十六章


 だから宇宙が始まったというわけか。





第一億七千二百六十万三千五百五十七章


 宇宙の終わりは?





第一億七千五百十六万五千十九章


 ・・・





第一億七千七百五十六万二千七百十八章


 くっそ。まじか。





第一億七千七百五十六万二千七百十八章


 意外と早いぜ、、





第一億七千七百五十六万二千七百十九章


 宇宙が終わるのは。





第一億七千七百五十六万二千七百二十章


 いや待てよ。





第一億七千七百五十六万二千七百二十章


 なぜ解がゼロになる?





第一億七千七百五十六万二千七百二十一章


 有り得ない・・・





第一億七千七百五十六万二千七百二十二章


 どこかで計算を間違った?





第一億七千七百五十六万二千七百二十二章


 確認が必要か・・・





第一億七千七百七十七万七千七百七十七章


 ・・・





第一億七千九百七十三万五千六百七十九章


 ・・・





第一億七千九百九十万五百七十一章


 計算に間違いはなかった。





第一億七千九百九十万五百七十二章


 てか、検算するのに6千4百年かよ!!





第一億八千七百七十五万二千六百二十三章


 ゼロになるということは・・・





第一億八千七百七十五万二千六百二十四章


 宇宙が終わったとしても更にその先がある。





第一億八千九百五十六万二千五百六十一章


 ・・・





第一億八千九百五十八万七千五十二章


 ああ





第一億八千九百五十八万七千五十二章


 ・・・





第一億九千八万五十五章


 ・・・





第一億九千七百五十三万七千五百六十六章


 ついに、





第一億九千七百五十三万七千五百六十七章


 全てを理解した。





第一億九千七百五十三万七千五百六十八章


 宇宙の全てを。





第一億九千七百五十三万七千五百六十九章


 そしてその先を。





第一億九千八百八十五万七千百六十一章


 ・・・





第一億九千八百八十五万七千百六十二章


 人類はもうこの宇宙には存在しない。





第一億九千八百八十五万七千百六十三章


 高次の存在となり、別の宇宙へ旅立った。





第一億九千八百八十五万七千百六十四章


 個という概念が消失した、





第一億九千八百八十五万七千百六十五章


 意識的集合体として。





第一億九千八百八十七万六十二章


 ・・・





第一億九千九百五十六万七千八百二十三章


 そう言えば、遠い昔にこんな落書きを見たっけ。





第一億九千九百五十六万七千八百二十三章


 "Time does not exist, clocks exist"





第一億九千九百五十六万七千八百二十四章


 ”時間は存在しない。時計が存在しているのだ”





第一億九千九百六十九万七千二十七章


 ・・・





第一億九千九百九十九万九千九百八十五章


 もうすぐ2億回だ。





第一億九千九百九十九万九千九百八十六章


 今までの54万8千年という時間は存在していたのだろうか。





第一億九千九百九十九万九千九百八十七章


 もし時間が存在しないのであれば・・・





第一億九千九百九十九万九千九百八十八章


 戻れるのでは?





第一億九千九百九十九万九千九百八十九章


 戻りたい。





第一億九千九百九十九万九千九百九十章


 1回目、





第一億九千九百九十九万九千九百九十一章


 いや、戻れるなら・・・





第一億九千九百九十九万九千九百九十二章


 この繰り返しが始まる前に戻りたい。





第一億九千九百九十九万九千九百九十三章


 ・・・





第一億九千九百九十九万九千九百九十九章


 あと1日。2億回ならば、あと1日だ。





第二億章


 人が見える。


 初日に見た男だ。

 今日で本当に終わりなのか?

 そのはずだ。あの男はそう言っていた。

 話し方を忘れてしまったな。言葉が出るだろうか。


 男に声を掛ける。

 「すいません。確か2億回と言っていましたよね」

 言葉が意外とすらっと出てきたことに驚く。

 男がこちらを振り向く。

 「あ、あの時の。久しぶりですね。どうやら終わったようですね」

 「はい。終わりました」 私は無表情で応える。笑うこともできなくなってやがる。「やっと2億回が終わりました」

 「え?」 男が眉をひそめる。

 「?」

 「2億回ではなくて、1回目ですよね?終わったのは」 男が怪訝そうな顔をする。

 「いえ、1回目ではありません。2億回目が終わったのです」 私はきっぱりと応える。

 「いえいえ、2億回目ではありません。2億回の1回目ですよ。それが終わったのです」

 意味が分からない。

 「いや、ですから」 私は口調を強めて言う。「もう既に2億回繰り返したんですって。2億日間かけて。54万8千年かけて。ほら」 私はカウンターを指さす。

 200,000,000 という数字。

 「ああ、そうですね」

 「はい」

 よかった。これで終わるのだ。

 「では、あっちのカウンターを見てください」 男が左の方向へ視線を投げる。

 少し離れた距離にあるカウンター。この男のものだ。そこに表示されている数字を見る。

 000,000,001??

 「1回?」 私は戸惑いを感じつつ男に尋ねる。

 「はい」 男が答える。

 「あなたは1回しかしていないのですか?この54万8千年をかけて?」

 「え?」 男が驚いた表情を見せる。

 「だから、あなたはまだ1回しかしていないのですか?」

 「あなたのですよ」

 「・・・」 意味が分からない。

 男が笑いながら応える。「あっちも、あなたのですよ」

 「え?」

 「ですから、あのカウンターもあなたのです」

 「えっと・・・」

 「ですから、あのカウンターもあなたのものなのです」

 「え? ・・・だって、1?」

 「はい。1です」

 「・・・?」 ますます意味が分からない。

 「1です」

 「え、でも、あれはあなたので・・・」視線を右側に戻し自分のカウンターを見つめる。「私のは2億に・・・」

 「だから、右側のも左側のも両方ともあなたのものなのですって」

 「・・・?」

 「ちなみに右側のカウンターは、また明日1に戻ります」

 「・・・!?」

 「さっき私はあなたに聞きましたよね」 男が諭すように言う。「1回目が終わったのですか?って」

 「で、でも・・・」

 「大丈夫ですよ。私は数え間違えてはいません」 男は急に優しい声になる。

 「・・・」

 「私が最初に言った2億回というのは左側のカウンターでのことなのです」

 「・・・」

 「そちらは右側が2億になった時点でひとつづつ増えていきます」

 「よ、よく・・・」

 「ですから。あなたは、2億回繰り返される2億回の中の1回目が終わったのです」

 「・・・?」

 「もう一度言いましょうか。あなたは2億回繰り返される2億回の1回目が終わったのです」

 「い、いや・・・」

 「あと1億9999万9999回ですね」

 「・・・いや」

 「大丈夫ですよ。心配することはありません」

 「・・・?」

 「私は信じているのです」

 「・・・な、なにを・・・」

 「あなたならできるということを」

 「・・・?」

 「諦めずに最後までやり遂げるということを」

 「・・・」

 「それがあなたなのですから」

 「・・・だって」

 「契約書もありますし」

 「・・・え!??」

 「大丈夫ですよ」

 「・・・」

 「終わりはいつか必ずやってきます」

 「・・・」 

 「その時に、あなたはいったい何を思うのでしょうね」

 「・・・」


 「ではまた、いつかどこかで」




 (了)


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繰り返しの永遠 塩沼 哲(しおぬま てつ) @Tetsu_Shionuma

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