第10話

翌朝から、僕はどぎつい肉食獣の攻撃を毎日のようにくらうことになった。


僕はもともと自分が草食系だとは全然思っていなかったのだが、楓と一緒にいると肉食獣というのはこんなにガンガン攻めてくるものなのだということを知って、自分が本当に穏やかな草食系の類いだったのだという事がわかった。


朝から、起きてすぐに楓に襲われそうになり、仕事だからと断り、朝食はスタミナの付くものが並んでいる。


そして、もちろん夜もうちを訪れて、布団の中に潜んでいることがある。


そのあからさまな感じに僕は思わず笑ってしまう。


「だって、私は隠したりするのが苦手ですから、増崎さんを好きとか食べたいとかいう気持ちを隠すつもりは全くないですよ。」


当然の事のように堂々と言い切るその潔さはいっそ、かっこよくも見える。


というわけで、いつでもどこでもいただかれてしまう心配をしなければならなくなった。


油断をすると、唇もすぐに奪われてしまう。


それが、嫌ではない事が不思議で、僕もそれを楽しんでいるのかもしれない。


そんなのを心の底で望んでいたのかと考えるとすごく恐ろしい。


でも、毎日が楓のお陰で楽しくなったのは間違いないのだからいつかいきなり食べられても文句は言えないかもしれない。


いや、いっそ、僕の方から食べてと差し出して、驚かせて反応を楽しむのも良いかもしれない。


「私達みたいに、攻防戦を楽しんでるのって本当は彼氏彼女じゃなくて戦友かなにかの方だよね?」


言われて、僕は即座に頷いた。


策を労して、いかに防ぐかとかいかに驚かせるか、普通のカップルでも少しはあるだろうが僕たちの比ではないと思う。


家の中に、転ばせるための罠が張られていたときなんか「ここは忍者屋敷だったっけ?」と自分がおかしい気がしてしまったくらいだ。


それも、押し倒すのが出来なかったから、転ばせて無防備になった隙を狙おうと思ってたとか言うんだから笑える。


お陰で、足下とかかなり注意するようになって、罠がなくても普段からこけていた段差に引っ掛からなくなった。


僕らはプライベートではこんなことをやっているが、仕事場では相変わらずモデルのように美しく物静かな彼女と、見惚れるほど可愛くて何でも天才的にこなすちっちゃな彼氏として有名だ────

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ギャップ萌え? 如月灯名 @kinoo

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