第9話
考え事に耽っていた僕はいきなり近づいてきた顔に警戒する事を完全に忘れていた。
そして、気付いた時には唇に深くて長い長い口付けをされていた。
しかも、口内までの侵入ありで。
「私はあなたのストーカーですから、他の事とか考えてたらあり得ないくらい嫉妬しますよ?」
その、すごく色気のある表情に見惚れて、「こんな場所でそんなことすんな!」という苦情を言いそびれる。
「…………私、気持ちに素直に生きてるんです。だから。」
再び顔が迫ってくる。
唇に向かって進んでくるのを阻止して、身体を抱き締めようとしていた両の腕をかわす。
「気持ちに素直なのは良いことだが、僕は出来れば見世物にはなりたくないな。」
そう言われて、楓がようやく辺りを見回した。
「私は、別に誰に見られようが構いませんが?増崎さんが気にするんですね?」
「ああ。気にする。」
特に納得しているわけではなさそうだが、やめてくれたのでホッとする。
「そうですか。では、仕事が終わってから増崎さんの家に帰ってからいただきましょう。」
「ん?」
さらりと口にされた肉食獣の言葉に、僕は思わず固まる。
そして、思わず帰ったあとの事を想像してしまった。
「帰ったら、僕を好きにして良いなんて一言も言ってないからな!」
僕の必死の言葉は完全に聞き流されてしまった。
彼女はご機嫌に鼻歌を歌いながらゆっくり歩いている。
僕はその横に早足で並ぶ。
僕が主導権を握ろうと思っていたら、いつの間にか彼女の手の内に納まってしまっていたようだ。
それでも、嫌じゃないのはきっと彼女が年齢ではなくきちんと僕自身を見てくれているからだと思う。
でも、悔しいから絶対に主導権は奪い返して見せる。
小さな増崎さんは大きな野望に燃えていた。
そして、頭の片隅に奇妙な彼女が出来てしまったようだ、ヤバめな彼女についていけるのか?という心配性な声が聞こえてきた気がした────
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