エピローグ
♠
あ~、疲れた⋯⋯
湯をなみなみと張った浴槽に四肢を投げ出し、大の字の状態でプカプカと浮かんでいボクは、長く、長く深呼吸をした。
あれから何が起きたのか、取りあえずあらましだけ伝えておこうと思う。
あの後、柳生顎人の配下だった五大惑星連合が、仇討ちと称して地球に攻め込んで来た。
顎人のヤツ、ああ見えて人望はあったんだな、
少なく数えても、三回は地球滅亡の危機があったんだけど、ボクたちの活躍で何とか乗り切ったと思ったら、最後に謎の魔法使いがやって来て、地球人類の九割が消滅する大惨事。
まあ、これもボクとコンシェルジュさんで何とかした訳だけど。
すると今度は、海底からアトランティスの大軍勢が地上の覇権を求めてボクに挑戦状叩きつけて来た。
なんか順番間違えてない?
それにしても河童小娘もとい姫乃のお父様(河童皇帝)の、大陸を覆い尽くす特大の津波で敵軍を追い払う大活躍はスゴかった。
アトランティスの船を落とした、赤鬼さんの超特大の雷もね。
あれでエベレストの形が変わったんだよな~
で、結局ボクとアンジェリカが単身アトランティスに乗り込んで、アトランティスの女帝と直接和平交渉をする事になった訳だ。
アンジェリカを連れて行って、本当に良かったよ。
あのままだとボク、アトランティスに永住する
まあ何やかんやあったけど、ようやく地球に平和が戻ったわけだ。
廃墟に変わった街も復興したし、おかげでボクはゆっくりとお風呂に入れるようななった。
忘れる所だったプロトハブ60000は、正式にマルチバースの一員に迎えられた。
ハブ60000になった訳だ。
まあ、ボクの活躍をグレイトフルトゥエルブが、正当に評価してくれた結果なんだけどね。
マルチネットの内と外の世界に突如現れて、破壊を繰り返す存在だったんだとか。
それを考える四十億じゃ足りない気もするけど、なんか恐いから深く考えるのはよそう。
べ、別におかしくはないよね。
二人は夫婦なんだし、当然やるべきことはやってるし――
駄目だ、考えるな桐生・ローレンス・暁人。
来年の今頃、琥珀さまに甥っ子か姪っ子が産まれてるってたけだ。
アァアァァァァァァ⋯⋯、ボクの上樹先輩が⋯⋯
そうだ
ボクの体験談を元に、新作アニメを手掛けた。
ほぼ実話なので、今度ロイヤリティを請求しようと思う。
まだマルチバースに馴染みの薄い日本での評価はイマイチだったけど、マルチネットでは絶大な人気を誇ってる。
二千近い異世界で放送され、いまも拡大を続けてる。
なんと実写化の話まで持ち上がってて、ボクの役を誰がするのかで、マルチネットは盛り上がってた。
ボクとしては、同じく変異を体験したジェームズ・アイアンサイドに演じて欲しいと思ってる。
ていうか演じてジェームズ。
お願いだから。
そうそう
ピンクちゃんや、アンジェリカを間近で見てるから。
異世界人の容姿の違いに免疫ができたらしく、スマートな接客が話題になってる。
あと師村の見た目もね。
イケメンってのは、どの世界でもイケメンみたいだ。
羨ましいヤツ。
中元も志願して、向こうに行くと息巻いてる。
なんか格闘技の話ができる彼女を探して来るってさ。
赤鬼さんに
高城も最初は面食らってたけど、赤鬼さんが飲める口だと分かると意気投合したようだ。
最後に1つ新井だけど。
あいつ異世界人だった。
「
洗い場から声が掛かった。
琥珀さまが呼んでる。
「背中を流してたもれ」
「はいはい」
「アキトー、アタイもお願い」
「はいはい」
「暁人さま、ぼくも」
「はいはい」
「ローレンス・暁人。あたしも」
「はいはい」
ボクは毎日彼女たちとお風呂に入ってる。
まあ大抵の場合、ここから誰が最初かで小競り合いが始まるんだけどね。
ピンクちゃんはいない。
マシキュランには入浴の習慣がないんだとか。
「暁人さん」
あれ!?
ピンクちゃん。
珍しいな、お風呂に入って来るなんて。
「どうしたの?」
振り向いたボクは眼を丸くして彼女を見た。
琥珀さまも、姫乃も、稟も、アンジェリカもだ。
ピンクちゃんの肌が、
「ひび割れてるよピンクちゃん!!」
滑らかなピンク色の肌が。
ボクの大好きな柔らかボディに、卵の殻に亀裂が入るような細かなひびが無数に入ってる。
「大変だ。大変だ、大変だ、大変だ!! マナさん呼ばなきゃ。マナさん呼んで、マナさん、マナさん」
「大丈夫です」
慌ててバスルームを飛び出そうとしたボクの手を取って、ピンクが自分の胸に押し当てた。
ぷるんと柔らかな大きな胸。
キュッと引き締まったウエスト。
そして迫力のあるヒップ。
ちょっと恥ずかしげに俯く顔から、ゆで卵の殻を剥がすように、次々にピンク色の表皮が剥がれ落ちていき。
ボクは、ハッと息を飲んだ。
黒いサラサラの髪に、オレンジ色の澄んだ瞳。
少し幼い感じのキュートな面立ち。
そのバランスは、なんというか完璧だった。
「ぴ、ピンクちゃん!?」
「ハイ」
「その身体は?」
「私、生体金属のボディから、炭素系のボディに変異しました」
「「「「エエエエッ!!」」」」
四人が同時に叫んだ。
ボクは
この胸は⋯⋯
「この胸、あたしの胸と同じぐらいのサイズよね」
「ハイ、参考にしました」
「このお腹は、ぼく?」
「ハイ、参考にしました」
「口元は、アタイに似てる」
「この眼は、あたしの眼よね?」
「鼻と耳は、ぼくのだ」
「ハイ、みなさんを参考にして、バランスを調整して配置しました」
「わらわは、どこを似せておるのじゃ!!」
「瞳の色と、胸の形と、全体のフォルムです」
あ~、なんか不満そうにしてる。
おっ!!
こ、このお尻の形は、上樹先輩のお尻だ。
おほほほほほほほほ。
まいったな。
これボクの好みにジャストフィットしてる。
「なんで、あたしたちに、ちょこっとずつ似てるの?」
アンジェリカが訊いた。
「暁人さんの視線を追って、皆さんのどこに注視してるか研究しました」
にこやかにピンクちゃんが言うと、四人が一斉にボクを睨んだ。
「
ピンクちゃんがニヤリと微笑んだ。
「言ったでしょ。必ず私が一番になるって」
「むううううう」
あ、怒ってる、怒ってる。
ピンクちゃんも煽るような態度取らなきゃ良いのに。
って、あれ。
「んっ、んんんんんっ⋯⋯」
琥珀さまがピンクちゃんの唇を強引に奪って、あれ、あれ!?
「これで、わらわ達は本当の家族なのじゃ」
お~っ!!
ちょっと前の琥珀さまなら、ここで一戦やらかしてたんだけど。
大人になった余裕からかな、ピンクちゃんを軽くいなしてるよ。
「え、あの琥珀さん!?」
ピンクちゃん困惑してる。
「ほらピンク、アキトがもう待ちきれないって」
え、いや、あの、これはほらねえ。
自然な男の生理現象っていうか。
「姫、ピンクちゃんが困ってるだろう」
「いまさら何言ってんの!? アタイたちは全員アキトの奥さんなんだし。ねえピンク!!」
「そうだ、そうだ!!」
「マシキュランのピンク」
ボク以外の全員が、ピンクちゃんを取り囲んで全身にキスしてる。
「あっ、嫌、そこは駄目ッ!! あ~ん、みなさんやめてください」
う~ん、なんか凄い光景だぞ。
これが幸せってヤツなのかな。
柳生顎人。
お前は、これ以上の何を求めたんだ?
ボクは手を叩いて、全員の視線を集めた。
「みんな。おいで」
「「「「「キャァァァァァ」」」」」
と、黄色い悲鳴が上がった。
この一年後。
母親の異なる五つ子が産まれるんだけど、それはまた別の物語ってことで。
おしまい。
♥
「おしまいじゃねえよ。なんだよ、このオチ。オレと河童ちゃんの新たな旅立ちはどうなんの。正しい未来はねえのかよ。なあ読者の皆さん。こんなのねえよな。なあ、どう思う? なあ、なあ、なあ!?」
「あきらめろよ
「嫌だぁぁぁぁぁぁ」
今度こそ、本当におしまい。
♥
赤備えの琥珀さま 富山 大 @Dice-K
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