第14話


 ♠



「で、お前は、結局誰の事が一番大切なんだ?」


 師村。


 いまはね、それどころじゃないの。

 他に重要な議題があるのよ。

 異世界の生首殺人鬼が逃亡してな。

 って、琥珀こはくさま、河童小娘かっぱこむすめりん、ピンクちゃん、そしてボクの膝の上にいるアンジェリカが、ジーッとボクの事を見つめてる。


 眼が合った途端に、琥珀さまは、両目を瞑って、胸の前で手を組んで祈るような表情を浮かべてる。


 あぁ~、もう可愛いなぁ。


 河童小娘は、河童小娘で、いまにも泣き出しそうな、不安気な顔してるし。

 これも、これで可愛い。


 稟。

 いつも四号で良いって言いつつ、そのジェスチャーはなに?

 ぼくを選ばないきゃ、殺すよって意味なのでは?

 鬼だ。

 この子は、やっぱり鬼なんだ。


 ピンクちゃん。

 あの、その、ねえ。

 眼。

 眼に瞳が出現してるよ。

 きらきらとした澄んだ瞳が、ボクをじっと見詰めてる。


 ああああああ


 なんか揺らぐ。


 アンジェリカ。

 そんな、どアップで、ちょっぴり恥ずかしそうにボクを凝視しないで。

 手が震えてる。

 アンジェリカのイレズミだらけの手が、カタカタカタって震えてる。

 不安?

 それとも期待!?



「で、誰」



 お前は鬼か。

 この状況で、誰かを選べる訳ないだろう。

 誰を選んでも、誰かが傷つくんだよ。

「あ~っ、の⋯⋯、その。みんな」



「「「「「みんな!?」」」」」



「それはねえよな拓海たくみ

 師村が呆れたように呟いた。

「うん、ないない」

 嘉藤かとうが首を左右に振った。

「オレは、河童ちゃん一択」

「河童ちゃんって、誰? って、ああ、このおかっぱの子か」


 中元⋯⋯


「本当に煮え切らないよな。そんな八方美人だから、お前。薫ちゃんに振られるのよ」



「「「「「薫ちゃん!?」」」」」



 いま、その名前を出すかよ!!

「薫ちゃんとは、誰じゃ!!」

 いきり立った琥珀さまが、師村に詰め寄った。

「暁人の元カノ」

「元カノ!? 元カノじゃと」

「アタイがいるのに、まだ、その女に未練があるの!?」

「暁人さまヒドい」

「桐生さん。こんな事は言いたくありませんが。いまの桐生さんと、この世界の女性とでは、肉体的な釣り合いが取れません⋯⋯」

「良いのよローレンス・暁人。――あたし、あなたが、その人を忘れるまで待ちます」




 あああ、もう、話がややこしくなった。



「なんで薫の名前を出すの」

「薫!!」

「呼び捨てにした」

「暁人さま~」

「変異が進んだ桐生さんと、その女性との間には、その⋯⋯」

「ローレンス・暁人――」

 アンジェリカが、ギュッとボクを抱きしめた。

「いい加減離れよ、ウロコ女!!」

「うるさい刃物女!! あたしとローレンス・暁人の問題に、口出ししないで」

「わらわと暁人どのの問題じゃ」

「アタイを忘れるな!!」

「ぼくも~」

「私も⋯⋯」


 勘弁してよ。


 ボクが何をした。

 こんなの理不尽だ。

 不条理だよ。

 薫とは、もう一年も前に喧嘩別れしたんだ。

 未練なんて無いし。

 いままで、思い出すこともなかったのに。

 全く師村は、昔から空気を読まないっていうか。 




 パンパン




 と、上樹先輩が手を叩いた。



 ♠



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