第15話


 ♠



「はい、そこまで。みんな。今はそれより、もっと重要な問題があるでしょ」


 さすが上樹うえき先輩。


 アルファ級のモンスターハンターは、目前の問題から眼を逸らさない。

「殺人鬼ジークベルトが逃亡したのよ。ほら、あなたはさっさと情報収集する」

 ピンクちゃんに指示を出した。

「ハイ」

 振り向いた上樹先輩が、琥珀こはくさまとりんを見た。

「あなたと琥珀ちゃんは、戦闘服に着替える」

「はい!!」

「いまは、それどころじゃ無いのじゃ」

 上樹先輩と眼を合わせず、ボクの眼を見続けている琥珀さまの、ほっぺを左右にギューッと引っ張りながら、上樹先輩が微笑んだ。

「琥珀ちゃん。いいから言う通りになさい」


 出たよ。


 人喰い虎も逃げ出す、上樹先輩の恐怖の微笑み。

「あなたと、あなたはプールに退避。何かあったら、すぐに自分の世界に戻りなさい」

「ええ、やだー。アタイもアキトと戦う」

「あたしも逃げたりしない。あのストーカーには、あたしの大切なファンが何人も被害にあってるの。今度こそ許さないんだから」

 腰に手を当てた上樹先輩が、首をかしげて二人の眼をじっと見つめた。


「そう。好きになさい。ただし命の保証は無いわよ」


 テキパキと指示を出す上樹先輩を見ながら、師村がボクに耳打ちした。


「何が起きてんだ暁人あきと

「あ~、なんて説明したら良いのか」

「いいから言えよ」

「ボクの命を狙ってる、異世界の殺人鬼が逃亡したんだ」

「はぁ?」


 うん。


 今日イチ、真っ当な反応だ。

「ジークベルトっていう、異世界の変態ストーカーがいて、人魚のアンジェリカにフォーリンラブなの。でも、アンジェリカはボクに惚れてるから、なんていうか逆恨みして、ボクを殺しに来たんだよ」

 師村しむらが呆れたように、ポカンと口を開けた。

「お前、なに言ってんの」


 これ以上端的な説明がある?


「もっと、詳しく聴かせろよ」

 嘉藤かとうが携帯に録音してる。

 お前、なにしてんの?

「いや、こんな面白いネタそうそう無いだろう。グリフォンが襲って来た所から詳しく話せよ」

「お前ねえ。そんな暇ないの。もしかしたら、ここが戦場になるかも知れないんだよ」

はじめ先輩。あのシールド人数分あります?」

 嘉藤が創先輩に声を掛けた。

「フォースフィールドシールドか?」

「はい」

「オレは持ってないが、確か、このペントハウスの倉庫に予備がある筈だ」

 そんなモノが、ここにあるの?

 ボクは知らない。

さとる。手伝ってくれ」

押忍おす

 二人して倉庫に向かった。

 勝手知ったるってヤツだ。

 もしかして、前任の管理人って創先輩なの?


「おら、さっさと話せよローリー」


「いま、そんな時じゃないって」

「上樹先輩が居るんだから、大丈夫だろう」

「なに? お前等、殺人鬼の相手を上樹先輩に任せるつもりなの?」

 師村が眼を剥いた。

 その気持ちは良く分かる。



 よ~く、分かるよ。



 でもな、訊いてくれ師村。

 上樹先輩は、多分、今、この瞬間、地球上で最も強い人なんだ。

「何事ですか?」

 いや、違った。


 

 もう一人いた。



 ♠



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