第2話


 ♠



「ふぁぁぁぁぁぁ」


 ボクは欠伸をしなが背伸びをした。

 平和だな~

 しみじみとそう思う。

 改装の済んだペントハウスを眺め見た。

 前とは間取りも変わり、家具も全部新調された。

 倉庫に眠っていた家具も運び出して、新たに模様替えを施した我が家は、以前にも増して輝いて見える。

 いや、まあ、我が家と呼んで良いのか疑問だけどね。


 前と変わった所もある。

 赤鬼さんに特別な許可を貰ったりんは、部屋住みのお手伝いさん兼、ボディーガード兼、花嫁修行のような立場で、ほぼ毎日入り浸ってる。

 隙あらば子作りチャンスを狙ってる、爛々らんらんとした瞳がちょっと恐い。

 そこに歯止めを利かせてるのが、ピンクちゃんの存在だった。


 彼女は二つ星補佐官の代理人として、このゲートの管理を受け持つ事になったんだとか。

 彼女も、ほば毎日顔を出してる。

 マナさんからも妹をよろしくお願いしますって、頼まれてしまってる。

 ちょっと波乱含みの再スタートだけど、まあ順風満帆って感じじゃないかな。


桐生きりゅうさん」


 ピンクちゃんだ。

「これで、どうでしょう?」

 と、隣にいる稟の背中をそっと押した。

「うん、良いんじゃないかな」

 ボクは稟の姿を眺めながら言った。

 稟の特徴的な銀髪はそのままに、きれいに角が隠れてる。

 真っ赤な肌も、ちょっと日に焼けた健康的な小麦色に変化してる。

 マシキュランの開発した、イメージ投影装置のお陰で、稟はこの世界の女の子そのままの姿になっていた。

 ちょっと背は高いけど。

 ついでに、スーパーマッチョだけど。

「うん、これなら外に出ても目立たないね」

 別の意味で目立つけど。

 身長が百八十センチオーバーのスーパーマッチョな美少女が、銀髪なびかせて街中を歩いてたら、嫌でも眼に止まると想う。

「本当?」

「本当、本当」

「じゃあデートしようよ、暁人さま」

「デート? 何がしたい」

「何でも良いよ。虎狩りでも、熊狩りでも、ライオン狩りでも」



 全部絶滅危惧種です。



 やっぱり鬼だな~

 可愛く見えても、鬼は鬼。

 物の考え方がちょっと過激だ。

「いや~、流石に野生の虎は今の日本にはいないよ」

「じゃあ、じゃあ海に行ってクジラを狩ろうよ」



 鯨!!



 あ~、捕鯨が禁止されて何年だっけ?

 ボクの祖父さんが子供の頃には、もう食卓に上ることはなかったっていうから、百年ぐらいは経つのかな!?

「いやそれも無理」

「えぇぇぇぇ、じゃあ何を狩れば良いの?」


 まず、狩ることがら離れよようよ。


「狩り以外でやりたい事は、なんかある?」

「う~ん、喧嘩!!」

 ちょっぴり悩んで、答えはそれですか。

 困ったな。

 どうにも稟は、ゴリッゴリの武闘派のようだ。

「喧嘩はなぁ。稟の相手を出来る人は、この世界にはいないと想う」

「え~~~っ」

 ぶーたれても無理なものは、無理。

 人死にが出ちゃうし。

「じゃじゃバース1854636に行こうよ。あそこなら大丈夫だから」

「バース1854636?」

琥珀こはくさんの世界です」

「グリフォン狩ろう、グリフォン。ぼく。グリフォンの焼き肉食べたい」


 琥珀さまの世界か~


 行けるもんなら行ってみたい。

 でもな~、ボクはまだ、

遺伝子ゲノムマーカーを施されてないんだよ」

「え~~~っ」

 がっかりした稟が、つまんないを連呼してるかたわらで、ピンクちゃんがペコリと頭をさげて持ち場へと帰って行った。


 困ったな。


 そうだ低温貯蔵庫に吊してるグリフォンの肉が、いい感じに熟成してたな。

 先輩たちも来るし。

 今晩は、あれで焼き肉にするか。

 普通の人がグリフォンの肉食べて大丈夫か分からないけど。



 ♠



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