第4話 ピンクバウンサー
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重っ。
想った程じゃないけど、やっぱり重たい。
「素敵。私、初めて名前を付けて頂きました。それがグリフォンスレイヤーで、イーグルワンの
硬いのかと想ってたけど、むしろ柔らかいピンクちゃんのボディに、ちょっぴりドキドキしちゃったよ。
ちゃんと体温もあるし、心臓の拍動も感じられる。
女の柔肌なんていうけど、そんなもんじゃない。
琥珀さまよりも、河童小娘よりも、別れた彼女よりもふくよかで、しっとりと柔らかいなんて。
もう、
もう、
もう、
これが本物の女の子なら口説いてる所だよ。
「なにをしてるの☆※○◦」
スキンヘッドのマシキュランが、ピンクちゃんに声を掛けた。
「凄いわマナ姉さん。私、桐生さんにお名前をつけて頂いたの」
「本当に?」
「うん。私は今日からピンクです」
「素敵!!」
マナと呼ばれたマシキュランが、その場でピンクちゃんを抱え上げてクルクルと回転した。
修復作業をしていた大工のマシキュラン達も作業の手を止めて、二人を取り囲み拍手と万歳をしてる。
エエエエエ!?
そんな重大事だったの?
だったら、もっと考えて相応しいあだ名をつけてやるべきだったかな~
「妹に成り代わり、お礼を申します桐生さん」
え、はあ。
「ワタシはマナ。マシキュランの世界で女優をしています」
「マナさん?」
「はい」
つるつるのスキンヘッドに、眼と耳だけが生えた顔は、ピンクちゃんに比べどことなく大人びた感じを受ける。
確かにお姉さんって感じだ。
「女優さんなんですね」
「はい。と、言ってもまだまだ駆け出しの新人です。なので時々こうして☆☆大使のお手伝いをしています」
彼女がどんな映画に出てるのか、スッゴい気になる。
あとで、マルチチャンネルで映画を探してみよう。
♠
ガブリエル・ポートって監督がいる。
あ、異世界の話ね。
ヒット作を何本も世に送り出した、いわゆるヒットメーカーなんだけど。
「面白くない⋯⋯」
マナさんが出演してるという
『アバタールクライシス』シリーズを立て続けにみたんだけどさ。
とにかく、これが酷い、
1作目は、確かに面白かった。
幾つかの矛盾点はあったけど、物語の勢いとスタイリッシュな映像の融合に夢中になって観賞した。
で、二作目の『アバタールクライシス:アストニッシッング』を観てがっかりした。
無駄なシーンのオンパレードで、主人公もな~んか卑怯な感じに改変されてて。
これが受けたの?
三作目、四作目、五作目と回を追う毎に、前作との矛盾点や
そりゃピンクちゃんがジェットレンジャーに夢中になる訳だよ。
まだ一貫性があるもの。
で、他に面白い作品ないのかな~?
と、探しててぶつかったのが『リベンジャーズ』シリーズ。
これの主人公の一人マイティ・サージェントがまぁ~格好良い。
二本のねじくれた角をこめかみの上から生やしたタフガイで、オーグアウルム製の剣一振りを頼りに、バッサバッサと敵を斬り払うの。
でも、サージ(マイティ・サージェントの愛称ね)自身心に深い傷を負ってるモノだから、敵を
そのポーズがまあ格好良い。
痺れるほど格好良い。
オーグアウルムだから
琥珀さまの刀が完成したら、間違い無くサージの真似をすると思う。
と、いうかしたい。
やりたい。
やらいでか。
で、マナさんだけど。
『アバタールクライシス』の二作目から準主役のホーク軍曹のアシスタント的な、ちょい役を演じてた。
ただね。
出る度に微妙に姿と性格が違うのね。
ある時は素のままのマナさんで、ある時はピンクちゃんみたいに頭髪があったり。
またある時は眼が無くて唇があったりと、ここにも一貫性がない。
どうもボクは、ガブリエル・ポート作品が肌に合わないみたいだ。
あ、そういやスピンオフ作品があったような。
チャンネルを合わせて作品をセレクト。
そうだ、これ。
アバタールクライシスの準主役だった、ホーク軍曹を主人公に迎えた作品だ。
ホーク軍曹が前作のラストバトルで戦死した部下とコンビを組んで、難事件を解決するバディモノで、こういっちゃ何だけど本編よりよっぽど面白い。
これだけでシリーズモノになっても良いくらいだ。
で、よくよくライナーノーツを読んでみると、ポート監督はプロデュースのみで、実際の撮影は新人監督がやってるみたい。
なるほど。
だから面白いのか。
でも、腑に落ちない点がひとつだけある。
前作で戦死した部下って男だったのよ。
すっごい身体能力の高いスタントマンが演じてたみたいで、彼が登場するシーンはアクションの質が違ってた。
全身を重たいコンバットスーツで被われて、素顔では1コマも出て来ないんだけど。
なんていうか、ボクはそのキャラクターが大好きだった。
顔も出せない、セリフらしいセリフもないのに、全身全霊で役を演じてる。
その一途さが、このキャラクターに間違いなく深みを与えてた。
彼の戦死するシーンは泣いたね~
もう大泣き。
炎に包まれ、何メートルも飛ばされて、最後はバラバラに砕け散るの。
で、今度のスピンオフで復活と聴いて、やった~と想ったんだけど。
何故か女性になってる。
前作までは、間違いなく男性だったの。
所が、このスピンオフ。
どーゆー訳か、戦死した部下が女になって戻ってくる。
右半身をサイボーグ手術された、緑色の肌をしたムッキムキボディの牙の生えてる女の子に改変されてるの。
確かに可愛いし、格好良い。
相変わらず無口で、白髪で、顔にも深いサイボーグ痕があってさ。
女なのに、こんな身体で生きて行かなければならないという悲運がキャラクターに加わって、なんともいえず凄く良いの。
ホーク軍曹との淡いラブロマンスも素敵で、続きが気になる終わり方したけどさ。
前作とのつながりは、どーなってんのガブリエル!!
やっぱりボクは、リベンジャーズシリーズの方が好きだな~
これこっちの世界で公開されたら、興行収益の記録を塗り替える大ヒット作になると思う。
あぁぁぁぁぁ
速く刀が欲しい。
サージの真似がしたいよ~
♠
「もうし!!」
腹に響くドスの利いた声でボクは眼を覚ました。
いったい何だよ。
時計を見ると、真夜中の3時だ。
「もうし」
まただ。
真夜中にやって来るなんて、なんて非常識なお客さんだろう。
怒り半分、あくびをかみ殺しながらキッチンの明かりを点けた。
先日のグリフォン騒ぎで、ボクの私室もグリフォンとコンシェルジュさんの50口径で滅茶苦茶にされている。
このペントハウスで無事だったのは、酒蔵とキッチンとバスルームの3カ所しかない。
あとは全部マシキュランとレプラコーンの改装待ちだ。
酒蔵では寝る気になれないし、バスルームで寝るのは論外だ。
消去法の結果、キッチンの床にお布団を敷いて寝ているのだ。
前のアパートに戻った気分で、こらはこれで悪くない。
「もうし。誰かおられぬか」
「ハイハイ、ちょっと待ってください」
寝間着のままお客さんに応対するのは失礼だから、手早く着替えて
「済みません。真夜中の訪問は基本的にお断り⋯⋯」
ボクの喉元に剣の切っ先が突きつけられた。
♠
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