第3話 美人姉妹はメタリック


 ♠



 レプラコーン達のお駄賃代わりの牛乳を買いに街に出た。

 ママチャリを漕いで道路に出た所で、露骨な変化に気が付いた。


 車が走ってない。


 一台も走って無いのだ。

 お正月シーズンを思わせる、ちょっぴり不気味な静けさのなか、ママチャリを進めてると、

『イーグルワン移動中』

 と、いう結構大きな声が聴こえて来た。

 イーグルワンってボクのこと?

 なんだか戦隊ヒーローっぽい響きに照れながら、ボクがイーグルワンなら誰がイーグルトゥーで、誰がイーグルスリー何だろうなんて事を想像しちゃった。


 琥珀さまは赤だから、きっとレッドだよね。

 武器も刀を使うし、何より強いから。

 河童小娘はグリーンかな。

 で、アンジェリカはブルー。

 水中戦のスペシャリストだ。

 水系が二人かぶるけど、深海のスペシャリストと河川のスペシャリストだから、まあ良いや。

 って待てよ。

 赤といったらりんも真っ赤だよな。

 レッドの二人かぶりはまずいよな。

 うーん、どうしよう。

 そうか銀髪ぎんぱつ

 稟は、とても特徴的な銀髪ロングヘアーをしてる。

 あの綺麗な銀髪を活かさない手はない。

 稟はシルバーで行こう。

 で、ボクがおっちょこちょいのイエローになる。


 ぷっ、あははははは


 イエローが、イーグルワンなの!?

 しかも、担当は料理と掃除とお風呂のお手伝い。

 どんな戦隊ヒーローだ。

「おつとめご苦労様」

 ボクはビルの屋上にいる黒メガネに帽子を脱いで一礼した。

 なんか動揺してるけど。

 あんな所にいたんじゃ丸見えだよ。

 頼りないな~

 分かりやすいのは良いけどさ。


 スーパーで買い物を済ませると、やっぱりレジで支払いを断られた。

 これだけはいつまで経っても慣れない。

 罪悪感を、ひしひしと感じてしまう。

 どうしても支払いに応じないというので、メモ用紙を一枚貰い、そこに一筆入れる事にした。

 約束手形みたいなものだね。

 そうすると店員さん、ひっくり返って驚いて、お店から出る時には、店員さん一同に万歳三唱で見送られてしまった。

 なんかもう、本当に気持ち悪いから、さっさとお家に帰ろう。


 取り敢えず、

「イーグルワン帰るよー」

 と、一言断りを入れてママチャリを漕ぎ出した。

 なにがイーグルワンなんだか。

 だったら番組名は『イーグルマンか?』

『イーグルマン』は、ちょっと格好悪いな。

『イーグレンジャー? いやいやジャーは多すぎる』

 じゃあなにかな?

『イーグルファイブ? 後で数が増えたら困る』

 やっぱり『イーグルマン』かな。

 どんなマスク被るんだろう。


 マスク?


 マスク!?


 マスク!!


『イーグルマスク!!』うん、これが良い。

 女子4人、男子1人の変則戦隊イーグルマスク。


 格好悪~


 なんて事を考えてる内にペントハウスに到着した。



 ♠



 エレベーターを出るとすぐに声を掛けられた。

「桐生さん」

 見るとヒューマノイドタイプのマシキュランが二体並んでいた。

 メタリックブルーでスキンヘッドのマシキュランが一体と。

 メタリックピンクでドレッドヘアーのマシキュランが一体だ。

 二人とも女性的なフォルムをしてる。  

 この場合一人・二人と数えるのが正しいのかな?

 良く分からないよマシキュラン。


「どちらへ行かれてたのですか?」

 ドレッドヘアータイプがボクに話し掛けて来た。

 眼と鼻はあるけど口がない、ちょっぴり不気味で綺麗きれいな顔をしてる。

「ちょっと買い物にね」

「買い物ですか」

 ボクは冷蔵庫に、牛乳を移しながら答えた。

「うん、うちのレプラコーンのお駄賃をね。彼らお金は受け取らないから、牛乳とクッキーの買い出しをね」

「言ってくだされば、係の者に任せますのに」

 ボクは拒絶するように手を振った。

「これはボクの仕事なんだ」

 と、いうか楽しみだね。


 お金を受け取ってくれるお店を探す内に、市内のスーパーもコンビニも全部回ってしまい、今は隣の市までママチャリで片道一時間のサイクリングをしてる。

 これが何というか、ちょっぴり楽しみになってんだよね。


 イーグルワンになった事で、信号もノンストップになってしまったし。

 時間短縮で距離が延ばせるようになった。

 これから、どの辺まで距離を延ばせるか試してみるつもりなんだ。


「まあ、そんな事が」

「笑えるよね。ボクがイーグルワンなんてさ。まるで戦隊モノのヒーローみたいだ」

「戦隊モノ? ジェットレンジャーみたいな?」

「え? 知ってるのジェットレンジャー?」

「はい。マシキュランの世界でも、こちらの世界で放送される戦隊モノは人気なんです。私も姉も夢中になって見てました」

 そう言われると、なんだか嬉しい。

「でも、ボクがイーグルワンなんて、なんかおかしいよね。カラーはきっと、おっちょこちょいのイエローだし」

「まっ、桐生さんご存知ないの?」

 ドレッドヘアーちゃんが小首をかしげた。


 なんか可愛い。


「なにを?」

「最近のイエローは、女の子のカラーなんですよ」

「へ~、そうなんだ」

 知らなかった。

 レッドが琥珀さま。

 ブルーがアンジェリカ。

 クリーンは河童小娘で、シルバーが稟。

 残った色はなにかな、紫?

「イーグルワンは、ブラックですよ」

 さも当然のようにドレッドヘアーちゃんが言った。


「ブラック!?」


 思いつかなかった。

 黒なんて、ボクからしたら最も遠い色に思える。

「全ての光を受け入れる優しく強い黒こそ、イーグルワンのカラーです」

 ドレッドヘアーちゃんがその場で小躍りした。


 すんごい振動。


 体重何キロあるんだろう?

「所で君は?」

「あ、失礼致しました。私☆☆大使の名代みょうだいとして参りました、☆※○◦と申します」

 そこはマシキュラン語なんだ。

 テヘッって感じでドレッドヘアーに手をやり眼を伏せた彼女。

 もし舌を出せるなら、きっとペロって感じで出してんだろうな。


「えっと☆※○○さん」

「違います☆※○◦です」

「ごめんよ、マシキュラン語は読むのはおろか、喋りもヒアリングも全く駄目ないんだ」

「まあ、それは困りましたね」

「どうしたものかな★★大使の名前も⋯⋯」

「そちらは補佐官のお名前ですね。大使のお名前は☆☆。補佐官は★★」

 正直、違いが全く分からない。

 コンシェルジュさん、あんたは凄い。

「駄目だ、困ったな」

「あだ名をお付けになったら如何です? ☆☆大使のお名前は、こちらの言葉に訳すと星になります」

「そうか。同じ音が二つ続くから星々大使か。でも、勝手に名付けちゃって大丈夫かな?」

「☆☆大使は様々な別名をお持ちです。今更一つ増えたとしても、お気になさらないかと」

「じゃあ補佐官は二つ星補佐官かな」

「まあ素敵!!」

 ドレッドヘアーちゃんが胸に前で手を合わせてジャンプした。


 ドシンッッ


 と、凄い音を立てたけど、その仕草は女の子そのものだった。

「君は何と呼ぶべきかな?」

「私の☆※○◦に対応する言葉は、この世界には存在しないようです」


 ちょっぴり寂しそうに、ドレッドヘアーちゃんが俯いた。

「ピンクでどうかな?」

 咄嗟に口から出た。

「ピンク?」

「そうピンク。肌の色が桃色だし。ジェットレンジャーが好きなら、ピンクが女の子のカラーだって知ってるよね」


 そう言った途端。


 大きく眼を見開いたドレッドヘアーちゃんがボクに抱きついてきた。



 ♠



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る