第7話 宴のあとは、お片付け


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 ペントハウスの大々的な改装かいそうが始まった。

 レプラコーン達は頑張ってくれたけど、物理的な限界は如何いかんともしがたい。

 赤鬼さんが潰した程度の損壊なら、一晩で修復可能だけど。

 50口径のライフル弾を食らって木っ端微塵になった家具は、事実上修復不可能だ。

 それに部屋の壁にも大穴が空いてるし、窓ガラスも全壊だ。

 そのほとんどがグリフォンと、赤鬼さんと、コンシェルジュさんが暴れた跡だ。

 金棒ブンブン振り回して柱が折れる。

 対戦者ライフルの連射で壁が崩壊し。

 グリフォンの大暴れで粗方の家具は使い物にならなくなった。

 もう最悪。

 終いには、河童小娘の津波で洗いざらい流されてしまってる。

 お陰で瓦礫の撤去は楽だけど、

あのアンティーク調の素敵なペントハウスは、見る影もないがらんどうと化してしまった。

「はぁぁぁぁ」

 ため息をついた。

 風呂に入ろうにも、大量の羽毛(それも特大サイズ)が散乱してるし、いますぐには使えない。

「どーすっかなこれ」

 1人ボヤいたボクの眼に、羽毛で戯れるミーたんの姿が写った。

「ミーたん、めっ!! ガラスが落ちてるかも知れないから、お部屋に戻りなさい」

 普段ならこれで素直に部屋に戻るんだけど、今日は言うことを聞かない。

 っていうか、何かに夢中になってる。


「ミーたん」

 襟首えりくびを掴んで抱き上げた。

 抱っこ嫌いだけど。

 じたばたするミーたんと一緒に、何か他のモノがじたばたしてる。

 良く見ると、ミーたんの口に小人が咥えられてはいた。

「こら、ミーたん。めっ!!」

 ボクは小人の身体を優しくつかみ、指でミーたんの口をこじ開けて解放した。

「ミーたんだめでしょう」

 ボクはミーたんをケージに入れた。


「そこで反省しなさい」


 反省はしない。

 もうボールで遊んでる。

 猫だし、子猫だし。

 仕方ないよね。

 ボクは小人を床に下ろし、お詫びにチーズクラッカーとココアを渡した。

 スカートを履いた涙目のレプラコーンは、驚いたような顔をしてボクにお辞儀じぎをした。

 お礼を言われるような事はなにもしてないよ。

 ミーたんの悪戯いたずらがいけないんだし。

「え、なに?」

 聞き取れないほど小さな声でレプラコーンが言うには、グリフォンの羽根を使って織物おりものが作れるがどうかというものだった。


 グリフォンの羽根の織物なんて、ボクには絶対に似合わないし。

 このペントハウスに飾るのも、なんか変な感じがする。

 丁重にお断りを入れようとした所で閃いた。


 ボクって天才。


「4人分作れる?」

 琥珀こはくさまと、河童小娘かっぱこむすめと、アンジェリカと、りんの上着を作ったらどうかなと思った。

 琥珀さまには、鎧の上に羽織る事のできる陣羽織じんばおりを。

 河童小娘には雨合羽あまがっぱを。

 河童が合羽を羽織るシュールな映像が思い浮かび、ボクはほくそ笑んだ。

 アンジェリカと稟には、スタイルの異なるマントなんてどうかな。

 稟は鬼族の娘らしく大柄な体格をしてる。

 身長も肩幅も水泳部だった、ボクとほとんど変わらない。

 アンジェリカも尾鰭おびれを入れればボクと同じくらいだ。

 水中生活を送るアンジェリカに、マントが必要かはわからないけど、まあ男のプレゼントで女が喜ぶことはないし。

 ボクの気持ちの問題だよね。


「できる?」


 ボクの問いに激しく頷いたレプラコーンは、クラッカーとココアを抱えて姿を消した。

 まるで妖精みたいだ。



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