第3話 怒涛の四者会談!!

 



「エーデルワイス公フリッツ・エリアス・イグナシオ・ティーデ六世さま」

 うやうやしくひざまづいた琥珀さまが、手にした刀を前に置いて跪礼きれいした。

 ボクも思わず同じポーズを取って琥珀こはくさまの横に並んだ。

 河童小娘は呆然としてる。

「これは、これは。獅道家しどうけのお嬢様ではないか。このような場所で出会うとは、奇遇きぐうだのう」

「はい。エーデールワイス公にはお変わりもないご様子。祝着至極しゅうちゃくしごくにございます」

「うむうむ。おもてを上げよ」

「はっ」

「名をなんと申す」

 両手に剣を持った琥珀さまが、よく通るハスキーな声で名乗った。

獅道珊瑚しどうさんごが次女。獅道琥珀に御座います」

「おお、そなたがキマイラスレイヤーの琥珀どのか」

「いえ、キマイラレイヤーなど、まだまだ名乗れぬ半端者はんぱものに御座います」

「そう謙遜けんそんするものではない。13でマンティコアーを、14でグリフォンを狩るとは、生半なまなかな者にできることではないぞ」

「はっ、しかし、曼丁蛟まんていこうを狩れたのも、倶利奔くりほんを狩れたのも、姉の助力があったればこそ」

 ふむ、とフリッツ六世さんが息を吐いた。

「姉上か。不世出の天才モンスターハンターであったと聞いておる」

「はっ」

「わずか14でシーサーペントのくびはねるとは、まさに天晴れな娘よ」

「エーデールワイス公にそのようにお褒め頂けるとは、姉も喜んでおりましょう」

「うむ」

 河童小娘がボクの袖を引いて、小声で耳打ちした。

「ねえ、あの小さなおっさん誰?」

「あ?」

「あって、あによ~」


 プンプンと頬を膨らめた河童小娘が脚をさすりながら、ボクの腕をつねった。

「痛いな、もう」

「ふん」

「これで許して上げるんだから、感謝するし」

「感謝ね、感謝、感謝」

 そう言って河童小娘の脚をでてやった。

「え、な、なにしてんのよ」

「痛いんだろう。患部を触らなきゃどんな状態か分からないじゃないか」

「べ、別に分からなくていいし」

 何だ、こいつ?


 あ~、キュロットスカートから延びる緑色の脚が熱を持ってる。

 内出血してるかも。

 氷で冷やしてやらないと。

「あ、暁人あきとどの」

 ジト眼の琥珀さまがボクを見つめてた。

「わらわにも」

「へ?」

「わらわにもっ!!」

 もう一度、へ?

 何が何だか分からない。


 ゴホン


 と、大きな咳払いをしたフリッツ六世さんがこっちへ来いと手招てまねきしてた。

「何ですか。お腹が減りましたか? すぐにキャットフードのご用意を⋯⋯」

「そうではないローレンス。お主はよい男だが。女心が、ちぃ~っとも分かっておらんようだな」

 エラくダンディーな口調でたしなめられた。

「えーっと、あの」

「琥珀嬢のことだよ」

「コハクさまの?」

「そうだとも。きっとあのニュースを見て飛んで来たのじゃろう」


 鋭いね。


 頭のデカさは伊達じゃないか。

 ミーたんと、はぼ同サイズだけど。

「それなのに全裸でほったらかされ、河童のお嬢さんと一戦やらかし。挙げ句、お主は河童のお嬢さんの心配しかしておらん」

「いや、それは、フリッツ六世さんと話されてたから」

「それは言い訳にすぎんな」

「えっと、どうすれば」

「それはお主が、自分で考えたまえローレンス」


 あ~、もう、無責任だな~⋯⋯


「えっと。コハクさま」

「はい」

 困った、眼のやり場にこまる。

 相変わらずツルツルなアソコを隠しもせずに近づいて来る。

 頭を撫でてやりながら、そっと肩に触れた。

 熱い。

 河童小娘の太腿ふとももと同様にれてる.

「アキト、アタイにもナデナデしてっ」

 いや、この体勢で太腿触れないし。

「違うし。頭」

 ボクが下に手を伸ばすと河童小娘が手を取って自分の頭に乗っけた。

「コレで良いのか?」

「エヘヘヘ」

「暁人どのわらわにも~」

「アタイが先」

「わらわが先じゃ」

「アタイ」

「わらわ」

「アタイ」

「わらわ」

「アタイ」



 らちが開かない。



 ♠



 はぁ~


 ボクはお風呂に肩まで浸かって首を左右にクキクキ曲げた。


 ゴリリ


 っと、凄い音がしたけど、お陰で肩の詰まりが取れた感じがする。

「こっちくんな」

「そなたこそ、こちらへ参るな」

 お風呂に入っても2人はいがみ合っていた。

 ボクが真ん中に割って入り。

 琥珀さまは湯船へ。

 河童小娘は冷水浴用のプールに浸かって疲れを癒してる。

「暁人どの、背中を流してたもれ」

「え、あ、ハイハイ」

 河童小娘のジットリとした視線が背中に突き刺さってる。

 何も悪い事してない筈なのに、何だか凄い罪悪感ざいあくかんが。

 ナイロンタオルにボディソープをたっぷり着けて泡立てて、琥珀さまの傷だらけの背中を擦った。

「ああぁ、そこ、もそっと。うんっ」


 なんかエロい。

 素晴らしくエロいよ、琥珀さま。

 ボクの顔は有り得ないくらいにたるんでる。

 自分でも分かるんだから、河童小娘の眼に映るボクの姿は最悪だろうな。

「むう~っ」


 やっぱり怒ってる。


「では、髪を洗ろうてたもれ」

 掛かり湯で泡を流した琥珀さまが、うっとりと微笑んでそう言った。

 とろけそうになるボクの頭に、突然津波が襲いかかった。

「だあああああああああ」

「何をするか」

「べーつに、ただ掛かり湯しただけだし」

冷水れいすいではないか!!」

 風呂桶に貯めた熱湯ねっとうを河童小娘に浴びせかけた。

「何すんのよ!! お湯掛かったら死んじゃうでしょ」

「死んでしまえ、そなたのような癇癪かんしゃく持ち暁人どのに相応ふさわしゅうない!!」

「何を~、アキトはそんなこと思ってないし」

 風呂場をゴロゴロと転がりながらボクは想った。


 身体がもたない。


「もうよせ2人とも。仲直りしたんじゃ無かったのか」

休戦協定きゅうせんきょうていは結んだ」

 河童小娘が吐き捨てた。

「だが和議わぎは結んでおらぬ」

 琥珀さまはやる気だ。


「ダメダメダ~メっ!!」


 琥珀さまの肩に手を置いて言った。

「あいつはまだガキなんだ。琥珀さまは大人の女だろう。余裕をもたなきゃ」

「アタイは子供じゃないし」

「だったら」

「だったら?」

態度たいどしめすのが、大人の女だろう」

「むっ、むう~」

 ちゃぽんと口元まで水に沈んだ河童小娘が、恨めしげな上目遣うわめづかいでボクを見た。



「アキトのいぢわる」



 ああああ、もう可愛いな。

 冷水浴用のプールに入って河童小娘の頭を撫でてやった。

「よしよし、痛かったよな」

「アキトー」

 抱きついて来た。

 全裸で。

 河童独特のひんやりしてるのに温かな肌が、ぴたりとボクの肌吸い着き、つるぺたな胸が、つるぺたな胸がむにゅんと⋯⋯


 アァァァァ⋯⋯


 嘉藤かとう

 頼むから、今は絶対に来るな。


「ローレンスッ!!」


 フリッツ六世さんの切羽詰せっはつまった怒鳴り声が浴室にこだました。


 何があったんだ!?



 ♠



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