第4話グリフォン参上!!


 ♠



 髪も乾かさずにバスルームから飛び出したボクの眼に、有り得ないモノが映っていた。


「グリフォンじゃ!!」


 と、フリッツ六世さんが耳元で喚いた。

 グリフォン。

 これが、あのグリフォン。

 現実味のない現実に、ボクの頭は軽くパニックを起こしていた。

「ゲートじゃ。マルチゲートから飛び出して来たのじゃ」

「飛びだしって、あんなのが飛び出して来るなんて聞いてませんよ」

「何事にもイレギュラーはある」

 イレギュラーって⋯⋯

 イレギュラーってレベルじゃ無いだろう。

 って、こっちを見た。


「逃げるぞ」

 言うが速いかフリッツ六世さんが姿を消した。

「あ、ずっこい」

「来るぞ」

 へっ?



 キョエェェェェェェェェ



 耳をつんざくような雄叫びを上げて暴れ馬のように棹立ちになったグリフォンが両の翼を広げてボクに威嚇した。

 デッカい。

 とんでもなくデッカい。

 広げた両翼が10メートルはある。

 そんな巨体なのに、

「どわっ⋯⋯」

 ボク目掛けて跳んで来るのは、とんでもなく迅い。

 タンスやテーブルをなぎ倒しながら、部屋の端まで跳んでいった。



 キョエェェェェェェェェ



 怒ってる。

 なんか知らないけど怒ってる。

 ボク、君になんかした?

 って、通じないか獣だもの。

「ウワァァァァァ」

 巨大な嘴が眼の前に迫った刹那、


 ジャイイイイインンンッ


 と、鞘音鋭く放たれた一太刀がグリフォンの顔を削った。

 琥珀さまだ。

 鎧を身につけず振袖ふりそではかま姿の琥珀さまが、抜き身の真剣を両手に構えて気合いを発した。


 グリフォンの雄叫びに負けない絶叫に、ボクは思わず痺れてしまった。

 琥珀さま、格好良い。

「逃げて暁人どの」

『アキト、こっち、こっちよ』

 河童小娘が小声で手招きしてる。

 バスルームに駆け寄ろうとした直後。



 キョエェェェェェェェェ



 と、顔から血を流したグリフォンの真っ赤な眼がボクを見た。

 待て、待て、待て。

 ボクが何をした。

「暁人どの」

 刀掛けに掛けてあった太刀を手に取った琥珀さまが、それをボクに投げて寄越した。


 エエエエエエ⋯⋯


 ボクが戦うの!?

 無理、無理、無理、無理!!

「どうわっ」

 鞘から剣を抜く間もなく、翼の一撃でボクは吹き飛ばされた。

 ガラス窓をぶち破ってプールに落ちたボクを、頭から飛び込んだ河童小娘が助け上げた。

「アキト逃げて」

 河童小娘の緑の瞳が光った。

 両手を力一杯押し出すなり、津波のような水の壁がグリフォンを襲った。

 ガラスの破片混じりの津波だ。

 巻き込まれた瞬間にグリフォンの表皮がズタズタに裂けた。

 そこへすかさず琥珀さまの一撃が入る。

 でも浅い。

 致命傷じゃない。

 どうすりゃ良いんだ、どうすりゃ!?


「何事ですか、これは?」

 コンシェルジュさんが小首を傾げてボクに訊いた。

「ボクが訊きたいよ」

「伏せて!!」

 二発目の津波がグリフォンを襲った。

 だが避けられた。

「承知しました。これ以上の狼藉ろうぜきは、お客様とはいえ許しません」

 何かを悟ったコンシェルジュさんが、どこからともなくカノン砲を取り出した。



 でた、マジシャン⋯⋯



「どいて」

 言うが速いか物凄い銃声がボクの鼓膜をつんざいた。

 ズシンとと内臓に響く衝撃波と、大量の火の粉がボクに降りかかる。


 あちゃちゃちゃちゃちゃっ。


 いや、


 ちょっと、


 あの、


 待ってよ、


 って、これ対戦車ライフルだ。

 対戦車ライフルの白煙を吐く巨大な銃口が、何故かボクを捕らえて離さない。

「桐生様どいて下さい、このままでは撃てません」


 イヤイヤイヤ。


 避けてる、ボクが避けてる方向に銃口が向くの!!

「チャンス。伏せて」


 ズドォォォォンッッッ


 ボクの背中を焼き裂くように飛来した50口径を、寸前でグリフォンが躱した。

 流れ弾の直撃した壁が、床に落とした豆腐みたいに粉々に砕け散る。

「ちいっ、命冥加いのちみょうがな」


 殺す気か!!


 って、ああああああ、ボクの部屋が、ボクの部屋が滅茶苦茶に⋯⋯


 トホホホホ~


 タンスが木片に変わり。

 TVが木っ端微塵に砕け散り。

 スクラップになった家財道を、河童小娘の津波が押し流す。


 琥珀さまもズタボロだ。

 きれいな桜模様の青い振袖は破れ、晒しが巻かれた胸が露わになってる。


 う~ん、セクスゥィ。


 って、そんな場合じゃないだろう。

「あっ」

 琥珀さまが押さえ込まれた。

「このぉぉ、いい加減にしろッ!!」

 いつの間にか後生大事に握ってた織波瑠魂オリハルコンの塊を、ボクは思いっ切り投げつけた。



 火事場のクソ力発揮!!



 大リーガーも真っ青の剛速球がグリフォンの頭に直撃すると。

 今の今までどんな攻撃にも怯まなかったグリフォンが、この一撃には踏鞴たたらんだ。


 チャンスだ。


「いまだ!!」

 って、コンシェルジュさん弾切れだ。

 河童小娘は?

 水が枯れてる。

 バルブを開かなきゃ。

 って、そんな暇あるか!!

 琥珀さま、まだグリフォンの脚に踏まれてる。

 どうすりゃ良いの、どうすりゃ、どうすりゃ。



「がっはっはっはっはっ」



 聞き覚えのある野太い笑い声が響いた。

 天の助けだ!!


「赤鬼さん」


 巨大な壷を抱えた赤鬼さんが鼻をほじりながら立っていた。



 ♠



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