第7話 「んぁっ」
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昼過ぎに目を覚ました。
案の定、河童小娘は居ない。
居た証拠はしっとりと湿った布団に、この匂いだ。
そうか!!
スイカの匂いに似てるんだ。
甘くて、爽やかな、夏の匂いに・・・
どーすっかなこれ!?
洗濯機で丸洗いにするか?
それとも布団乾燥機にたたき込むか?
いや、
「天日干しだよな、やっぱり」
ボクは屋上のデッキチェアーに、掛け布団と敷き布団を置きながら。
そーいや、あいつの名前訊くの忘れてたな~
なんて事を考えた。
♠
河童小娘の布団を虫干しした事で、変なスイッチが入ったボクは、ペントハウスの模様替えを始めてしまった。
もちろんコンシェルジュさんの許可は得てる。
「桐生様のお好みのままに、ご自由にお変えください」
ニッコリ笑ったコンシェルジュさんの髪の毛は、7色に輝いていた。
もう深く考えるのはやめよう。
ペントハウスには、とても大きな倉庫が併設されており、その中には、数え切れない程多くの家具や調度品が納めてある。
まずボクが着手したのは、ゲストルームの模様替えだ。
琥珀様のお部屋は、なんとなく和風テイストを盛り込む事にした。
もしかしたら、このペントハウスの洋風な雰囲気を楽しみにしてるかも知れないので、やりすぎないように注意しながらデザインする。
着物を掛けるための
刀掛けに、鎧を置けるラック。
あとは何かな?
そうだ香炉なんて置いたら雰囲気良いかも知れない。
フリッツ六世さんの部屋には、ドールハウスを置いた。
なんか凄い贅沢な作りのドールハウスが倉庫にしまわれてたので、それを引っ張り出して来た。
家具も調度品も、全部10分の1サイズに縮小されてるんだけど、作りがしっかりしてる。
タンスの中には何十着も着替えが入ってるし、これならフリッツ六世さんも満足してくれるんじゃないかな。
ネコ缶も何個か置いておこう。
問題は河童小娘の部屋だ。
あいつが何が好きなのか、全く分からない。
そもそもあいつの名前すら知らない。
取り敢えず部屋の掃除だけしっかりしておこうと想う。
天気の良い日に、予備のデッキチェアーを全部屋上に並べて、布団を干した。
クーラーボックスに氷を敷き詰めて、パロマとソーマを数本突き刺して準備完了。
布団叩きでビシバシやれば、真夏の陽気も手伝って、瞬く間にフカフカになった。
汗をかいたらプールに飛び込み、喉が渇いたらパロマを煽る。
酔っぱらったらソーマを飲みながらパラソルの下で一休み。
管理人の仕事をしてるのに、なんか優雅な1日だった。
驚いた事がある。
ペントハウスのベッドの事だ。
凄く軽い。
ゲストルームのベッドの位置が何となく悪くて、日差しがもろに顔に掛かる部屋があった。
配置を変えなきゃと想ったんだけど、作りは豪華だし、見るからに頑丈そうだし、かなり重いと思いながら手を掛けたら、
スッ
と、持ち上がった。
桐やバルサ材で作られたって、こんなに軽くは無いと想う。
きっと別世界の素材なんだろうな。
さて、お次はダイニングとリビングの家具の配置換えだ。
って、これボク1人じゃ無理だよな~
そうだ師村と嘉藤に、手伝って貰おう。
ついでにペントハウスの御披露目もすれば良い。
あいつらには、引っ越した事をまだ言ってない。
って、言う暇も無かったんだけど・・・
「うぐっ……」
何だ、この臭い。
凄いクサい。
鼻が曲がるような悪臭に顔を顰めたボクは、それを見て腰を抜かした。
見上げる程にデカいそれは、頭に二本の角を生やしていた。
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