第6話 「ほぇっ」


 ♠


 ボクは河童小娘をお姫様抱っこで抱き上げると、ゲストルームまで運んでやった。

 極力なにも見ないように、真っ直ぐ前を向いて。

 でも、見えちゃう。

 チラチラと見えちゃう。

「なんで裸なんだよ」

 河童小娘をベッドに置き、背中を向けてボクは訊いた。

「だって寝る時に、服なんて着ないし」

 どののセレブリティ様ですか。

「もう、これで大丈夫だな」

 明け方の涼しい風が窓から吹き込んで来た。

 そうか。

 昼間、部屋の空気の入れ換えの為に、全部の部屋の窓を少しだけ開けてたんだ。

 それでミーたんが入り込んだのか。

「やだ」

「なにが?」

「一人にしないで、恐いよ」

「なんも恐くないって。見たろ、ミーたんは檻に入れた」

「アメリア以外にも、マンティコアやキマイラが居たらどーすんの!?」

 マンティコア?

 キマイラ?

 居ないし。

 いや多分居ないと想う。

 こっちには・・・

「居ないよ。じゃあ、ボクも、もう寝るから」

 最後の方は、欠伸あくびにかき消された。

「やだ、やだ、やだ、や~~~」

 ベッドがら飛び降りて背中に抱きついてきた。

 おおう、胸が。

 ぺったんこな胸が。

「どうしろっての?」

「添い寝して」

「ハイ?」

 ボクは振り向いた。

 素っ裸の河童小娘が、恥ずかしそうに俯いて胸と股間を両手で隠してる。

 水掻き薄いんだな。

 ちょっぴり透けてる。

「添い寝してくれなきゃ、泣くからね」

 嘉藤・・・、お前ならこんな時どうする?

「さっき夜這いするなって言ったろ」

「さっきは、さっき。いまは、いまなの。恐いよアキト~」

 地団駄を踏む河童小娘を見ながら、ボクはゲストルームのソファーに寝転んだ。

「同じ部屋で寝てやるから、それで良いだろ」

「ダメ。こっちに来て」

 河童小娘がボクの手を引っ張った。

 全裸の恥ずかしさは、どこかへ飛んでったらしい。

 ため息をついてベッドに腰掛けた。

「これで良いか」

「まだ、こっち」

 掛け布団を持ち上げて、ボクを招き入れた。

「腕」

「は?」

「う~でっ!!」

 強引にボクの左腕を枕にして、河童小娘が寝転んだ。

 仕方なくボクが身体を寄せると、とろんと眼を潤ませるて、そのまま静かな寝息をたてた。

 もしかしてこいつ、ずっと眠かったのか。

 それなのに無理してボクに会いに来たのか。

 そう想うと、なんだか暖かなものが胸に込み上げて来た。

 腕。

 目が覚めたら痺れてるんだろうな。

 と、思いながら、ボクも眼を瞑った。

 なんだろう。

 この部屋、凄く良い匂いがする。

 コロンの匂いかな。 

 あ、違う。

 河童小娘の匂いだ。

 ボクは想わす河童小娘の髪の匂いを吸いこんだ。

 汗の香りかな?

 それとも・・・

 河童小娘の額にキスをして、ボクの意識は遠のいていった。



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