赤鬼さんがやって来た!!

第1話 危険を回避する10の方法


 ボクの名前は桐生きりゅう・ローレンス・暁人あきと

 多分、今、この瞬間、世界で最も脅えてる男だと想う。



 ♠



 鬼だ!!

 真っ赤だ。

 いやなにがって、肌が。

 肌が真っ赤っかだ。

 口を開くと牙がズラッと並んでる。

「がっはっはっはっ」

 笑った笑顔が凄く恐い。

 赤鬼だ。

 赤鬼さんは、ボクの脇に手を差し込んで起こしてくれたけど、その手が凄くデカい。

 とんでもなくデカい。

 ボクと胴体と、ほぼ同じサイズしてる。

 昔博物館で見た、シロクマの剥製を思い出した。

 180センチあるボクが子供に見えた。

 あ、本当に虎革のパンツ履いてんのね。

「がっはっはっはっ」

 笑いながら部屋を見回し、

「がっはっはっはっ」

 と、笑いながら金棒を琥珀様の刀掛けの隣にある、ドデカいウェポンラックに置いた。


 ドガンッッッ


 思わず耳を塞いだ。

 何て重量感溢れる音だろう。

 下の階の住人さんごめんなさい。

 この人、鬼だから。

 人間の常識通用しないみたいです、はい。

「がっはっはっはっ」

 笑いながら椅子に座る。

 潰れた。

 笑いながらソファーに座る。

 潰れた。

 笑いながら、

「ちょっと待って、待ってて」

 ボクは大急ぎで倉庫に向かい、そこで見つけた特大サイズの座布団を持って戻った。

「おぉぉぉぉ、良いではないか。良いではないか」

 満足してくれたようだ。

 何に使うんだろと想ってたけど、そうか赤鬼さん用だったのね。

 あ~ぁ、アンティークの椅子とソファーが・・・


 トホホホホホ~


 暗澹に暮れたボクに、赤鬼さんが笑いかけた。

「がっはっはっはっ。酒じゃ、酒じゃ」

 あ、やっぱり飲むのね。

 ボクは冷蔵庫からパロマを取り出して、栓を抜いて渡した。

 凄い。

 パロマの瓶が生きたまま腸に届く乳酸菌飲料のプラケースに見える。

「駄目じゃ、駄目じゃ、これは水じゃ~」

 ポイッとパロマの瓶を棄てた。

 あ、お気に召して無い。

 じゃあ、日本酒。

 ああ、日本酒の一升瓶が、500ミリのペットボトルにしか見えない。

「う~む、良くない、良くない」

 まだダメ?

 それじゃ焼酎でどうだ。

 次から次に、一升瓶のケースを運ぶボク。

 ペントハウスのワインセラーには、世界中のお酒が置いてある。

 ちょっとした酒蔵なんだけど、どれだけあるのか全く把握しきれてない。

 って、いうか、ボクは一度も補充した記憶がないんだよね。

 赤鬼さんは、グビグビと焼酎瓶を空にする。

 見てて気持ちが良いほどだ。

 まるて乾いたスポンジだね。

「う~む、良くない。良くない」

 へ?

 いや、どうみても二十本は飲んでるよ。

 それでもダメなの?

「軽い、良くない、良くない」

 よ~し、それならこれでどうだ。

 ボクはラム酒とウォッカをケースごと持ってきた。

 まずはラム酒を渡す。

 アルコール度数75パーセントのラムだ。

 前に1度高城に騙されて、酷い目をみたいわく付きの一品だ。

「うーむ」

 栓を抜いて匂いを嗅いだ赤鬼さんが、一気に飲み干した。

「おぉぉぉぉ、おぉぉぉぉ、良いではないか。良いではないか。がっはっはっはっ」

 お、気に入ったようだ。

「良いではないか。良いではないか」

 次々に栓を抜いては、一気に飲み干す。

 いやいや、ダメだろうこれ。

 いくらなんだって75パーセントだぞ。

「あの~、赤鬼さん。それぐらいにしておかないと……」

 ギロリと血走った赤い目がボクを睨んだ。

「あ、すいません。出過ぎた真似をしました」

 障らぬ神になんとやらだ。

「がっはっはっはっ」

 手にしたラム酒の瓶をボクに差し出した。

「へ?」

「むぅっ」

「飲むの? ボクが!?」

「むぅっ」

 ハイハイって、これ、飲むの、ボクが?

 死んじゃうよ。

 一口飲んだ。


 ひゃ~っ 


 と、唇と舌が冷たくなる。

 注射をされるとき、アルコール綿で消毒されるときの感覚。

 あれが口のなかで起きる感じだ。

 飲む込むと、こんどは食道と胃が灼けるように熱くなる。

 あ~、これこれ。

 この感覚。

 咳混むと同時に思い出した。


 高城~・・・


「がっはっはっはっ。良いではないか。がっはっはっはっ」

 瓶を差し出して来た、乾杯するの?


 チン


 と、打ち合わせて同時に口に含む。

 もう無理。

 ボクは冷蔵庫に走ってソーマをがぶ飲みした。

「うーむ、良くない。良くない」


 えぇぇぇぇ、


 チェイサー入れるのはダメですか~



 ♠


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