第4話 シクシク泣いてた河童小娘が、


 ♠



「証拠見せて」

 と、ガバッと起きあがり恐い眼でボクを睨んだ。

 嘘をついたら、ぶっ殺してやる。

 って、緑色の瞳がいってる。

「しょうがないな」

 免許証を出してテーブルに置いた。

 どこから取り出したのか、スマートフォンみたいなモノで免許証を見てる。

 あ、立体映像だ。

 凄い技術持ってるな河童。

 空中に奇妙な文字が浮かんでる。

 多分、河童文字だ。

 あ~、読めちゃう。

 何故か、読めちゃう。

 嫌でも、読めちゃう。

 桐生・ローレンス・暁人って、確かに書いてあるよ。

「ああああ、これがローレンス様なの~」

 何を想像して、ここまで来たんだよ。

 勝手な想像膨らませて、実物見て勝手に幻滅するなんて失礼だよね。

「それ。アタイにも飲ませろ」

 水掻きのある手でパロマを指差した。

「馬鹿言うな。子供に酒なんか飲ませられるか」

「子供じゃねえし」

 いや、ツルペタだし、生えて無いし。

 どう高く見積もっても小学校4・5年生だから、君。

「ダメだ。子供にしか見えない」

「子供じゃ無いし、いいからよこせ。こんなの飲まないとやってらんないし」

 テーブルに飛び乗った河童小娘が、ボクの手からパロマを分捕った。


 メモ:河童はお酒も頭の皿で飲む。


「ヒック。こんなのやってらんない」

 トップギアで呂律が回らなくなった河童小娘が、据わった目つきでボクを見た。

「あ~、も~う。たった一口で酔っ払ってるじゃないか」

「うるは~い、こんなの飲まなきゃやってらんないんだよ。アタイの王子様が、こんな意地悪で、スケベな変態だったなんて、ひろいじゃないか」

 王子様って、なんなんだ?

 どーなってだ!?

 フリッツ六世さん、出て来て責任取ってよ。

「ほら、ソーマ飲んで落ち着けってば」

 ボクは、河童小娘の頭にソーマを掛けた。

「やだ!? なにすんのエッチ」

 水掻きでひっぱたかれた。

 かなり痛い。

「女の子の大切な部分に、勝手に触らないでよ」


 メモ:河童の皿は、かなりセンシティブな部分らしい。当たり前か。


「本と信じらんない。お風呂覗くし、お皿触るし。アキトのスケベ、変態、馬鹿ー!!」

 久しぶりに暁人って呼ばれた。

 罵声だけど、ちょっぴり嬉しい。

「覗いてねえって、あれは事故だろう」

「嘘だ。アタイの裸見て喜んでたくせに」

 しまった、見透かされてる。

「ツルペタのロリ河童の裸見て何が楽しんだよ」

「ロリ河童だとぉぉぉぉぉ!! ロリってなに?」

『ロリは、世界共通語で可愛いって意味なんだ。異論は認めない!!』

 そう豪語した嘉藤の顔が一瞬浮かんで、すぐに消えた。

 我が友よ、お前は真正だよな。

「可愛いって、意味だよ」

「かわっ……」

 うわぉ!!

 河童小娘の顔が濃い緑色に変わった。

 これって照れてるのか?

「か、……いまさらカワイいなんて言ったって、許さないんだからね」

 やっぱり照れてる。


 メモ:河童は照れると、顔を緑にする。


「も、もう寝るし」

 サッと立ち上がって、ゲストルームに向かった。

「一番端の二部屋以外、好きに使えよ」

 ずらっと並んだ部屋の一番手前の二部屋は、それぞれ琥珀様とフリッツ六世さん専用にしてる。

 残りの部屋も、グレードは変わらないし、部屋の規模も一緒だ。

「アンタの部屋は?」

 ボクの部屋?

「ボクの部屋に何の用があるんだよ」

「いいから」

 焦るように訊くから、仕方なく指差した。

「あれね」

 と、聞き返した河童小娘は、わざわざ一番遠い部屋を選んでドアノブに手を掛けた。

 あ~、もう、知ったもんか。

「夜這いしないでよね」

「するもんか、馬鹿」


 べぇ~


 と、舌を出した。

 なんだ、舌はピンク色なんだ。

 バタンと、わざとらしく音を立てて扉を閉めた。

 なんだあれ。

 本当に腹が立つな。

「ニャァァァァァァァ」

 悲鳴だ。

 なんだ!?

 ボクは大急ぎで扉を開けた。



 ♠


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