第3話 「そのゲートってなんだよ」
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と、ボクは訊いた。
「移動ゲートだよ。色んな世界に行けるゲート。知らないの?」
「知らないよ」
「それが次元嵐で閉鎖されてさ。再開した時には真夜中になってたの。悪いとは想ったんだけどさ、それでもここに来たかったんだ。ゴメン」
やっと謝罪の言葉が出た。
「それで汗かいちゃったし、憧れの人に会うのにさ、汗臭いなんてやじゃん。見るとお風呂があるし、それてザバンって」
「お風呂は家の中」
「分かったっば」
「汗を流しだいなら、ちょうど良い温度だから入れば良いよ」
そう言ってバスルームを指差したんだけど、河童小娘がプルプルと震えてた。
なんだ?
「アタイにお湯に浸かれっての!?」
「なんだよ」
「死んじゃうでしょ。この人殺し」
メモ:河童はお湯に入ると死ぬらしい。あと、普通に人殺しって口にしてた。
「怒るなよ。悪かったよ。河童がお湯に入ると死ぬなんて知らなかったんだよ」
「本と信じらんない。一般常識てしょ」
常識じゃな~い。
河童が実在する事すら知らなかったんだし。
「それにアンタが入った後のお風呂なんて、ばっちくて入れないし」
なんだと!?
ムカムカムカ~
と、腸が煮えて来るのが分かった。
「でさ?」
「あん」
ボクはぶっきらぼうに応えた。
この河童小娘と、これ以上話す気になれない。
さっさと寝てしまいたいけど、こんな気持ちのまま布団に入っても、悶々として眠れないと想ったボクは冷蔵庫を開けた。
「ローレンス様は、どこにいるの?」
「はぁ?」
パロマの栓を抜いて、ライムも沈めずに口に付けた。
「だからローレンス様だってば。ここにいるんでしょ?」
「居るよ」
「ねえ、やっぱりまだ寝てるの? ま、当然だよね」
モゾモゾと胸の前に組んだ指先がせわしなく動いてた。
「いや起きてる」
「本と? じゃさ、どこに居るのかな!?」
その問いに、ボクは親指を立てて自分の胸を指した。
「あはははは。ジョーダンは良いってば」
「冗談じゃねえし」
「へ?」
「ボクが、桐生・ローレンス・暁人だよ」
ポカーンと口を開けてなんて、良く耳にするけで、本当に見る機会ってそんなにないよね。
ボクは、その機会に恵まれた。
河童小娘が口を開いたまま、マヌケな顔して呆然としてる。
うん、この顔は可愛らしい。
顔色緑茶みたいだけど。
「ウソだー」
突然叫んだ。
「ローレンス様は、お優しくて、誠実で、紳士で、格好良くて、身長は2メートルぐらいあって、世界一のビーストテイマーで、卓越した戦士で、あんたなんかと全然違う人なんだから~」
一気にまくし立てた河童小娘は、テーブルに突っ伏してシクシクと泣き出した。
別世界のボクは、どんな人間として噂になってるの?
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