第3話 「そのゲートってなんだよ」


 ♠



 と、ボクは訊いた。

「移動ゲートだよ。色んな世界に行けるゲート。知らないの?」

「知らないよ」

「それが次元嵐で閉鎖されてさ。再開した時には真夜中になってたの。悪いとは想ったんだけどさ、それでもここに来たかったんだ。ゴメン」

 やっと謝罪の言葉が出た。

「それで汗かいちゃったし、憧れの人に会うのにさ、汗臭いなんてやじゃん。見るとお風呂があるし、それてザバンって」

「お風呂は家の中」

「分かったっば」

「汗を流しだいなら、ちょうど良い温度だから入れば良いよ」

 そう言ってバスルームを指差したんだけど、河童小娘がプルプルと震えてた。

 なんだ?

「アタイにお湯に浸かれっての!?」

「なんだよ」

「死んじゃうでしょ。この人殺し」


 メモ:河童はお湯に入ると死ぬらしい。あと、普通に人殺しって口にしてた。


「怒るなよ。悪かったよ。河童がお湯に入ると死ぬなんて知らなかったんだよ」

「本と信じらんない。一般常識てしょ」

 常識じゃな~い。

 河童が実在する事すら知らなかったんだし。

「それにアンタが入った後のお風呂なんて、ばっちくて入れないし」

 なんだと!?


 ムカムカムカ~


 と、腸が煮えて来るのが分かった。

「でさ?」

「あん」

 ボクはぶっきらぼうに応えた。

 この河童小娘と、これ以上話す気になれない。

 さっさと寝てしまいたいけど、こんな気持ちのまま布団に入っても、悶々として眠れないと想ったボクは冷蔵庫を開けた。

「ローレンス様は、どこにいるの?」

「はぁ?」

 パロマの栓を抜いて、ライムも沈めずに口に付けた。

「だからローレンス様だってば。ここにいるんでしょ?」

「居るよ」

「ねえ、やっぱりまだ寝てるの? ま、当然だよね」

 モゾモゾと胸の前に組んだ指先がせわしなく動いてた。

「いや起きてる」

「本と? じゃさ、どこに居るのかな!?」

 その問いに、ボクは親指を立てて自分の胸を指した。

「あはははは。ジョーダンは良いってば」

「冗談じゃねえし」

「へ?」

「ボクが、桐生・ローレンス・暁人だよ」

 ポカーンと口を開けてなんて、良く耳にするけで、本当に見る機会ってそんなにないよね。

 ボクは、その機会に恵まれた。

 河童小娘が口を開いたまま、マヌケな顔して呆然としてる。

 うん、この顔は可愛らしい。

 顔色緑茶みたいだけど。

「ウソだー」

 突然叫んだ。

「ローレンス様は、お優しくて、誠実で、紳士で、格好良くて、身長は2メートルぐらいあって、世界一のビーストテイマーで、卓越した戦士で、あんたなんかと全然違う人なんだから~」

 一気にまくし立てた河童小娘は、テーブルに突っ伏してシクシクと泣き出した。

 別世界のボクは、どんな人間として噂になってるの?


 ♠

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