第4話 ある日の仕事帰り。

 ♠



 近所のスーパーで買い物をした時の事だ。

「ローレンス様から、お代は頂けません」

 と、レジ打ちの人に言われた。

「へ?」

「ですから、ローレンス様から」

 なんで、この人が、その名前を知ってるの?

 ボクの背中を、


 そわぞわぞわ~、


 と、冷や汗が流れ落ちた。

 ボクは逃げるように料金を払って、その場を離れた。

 別の日。

 タクシーに乗ったボクは、料金メーターが回ってない事に気づいてドライバーさんに声を掛けた。

「ローレンス様に御乗車頂き光栄です」

 と、にっこり笑った。

 その顔がトカゲの様に見えたボクは、すぐさま車を降りた。

 バスに乗った、バス代もタダ。

 電車に乗ったら切符代もタダ。

 これはさすがに無いだろうと、飛行機のチケットをネットで買ったら、搭乗口で返金された。

「ローレンス様にお支払頂く訳には参りません」

 ニッコリ微笑んだ彼女の眼には、瞳が三つ入ってた。

 ボクはマンションに戻ってコンシェルジュさんに声を掛けた。

「あら? どうなさいましたローレンス様」

「やめて」

 ボクは、言った。

「そのローレンスってのやめて」

「はい。桐生様」

 今日のコンシェルジュさんは両目とも真っ黒で、髪の毛が真ん中から赤と青に分かれてる。

「なんで皆、ボクの事をローレンスって呼ぶの?」

「それは貴男がローレンス様だからですよ」

「いやいや、ボクは桐生暁人ですって」

「桐生・ローレンス・暁人様ですよね」

 ちがう、ちがう。

 ボクは首を左右にブンブン振って否定した。

「でも、これ」

 どこからともなく契約書を取り出した。

 マジシャンですか、あなたは。

 で、机の上に広げて見せた。

 署名されたサインには、


「桐生・ローレンス・暁人]


 と、ボクの筆跡で記されてあった。

「えええええ」

「どうなさいました?」

 免許証を見た。

 桐生・ローレンス・暁人と書いてある。

 保険証も同じく桐生・ローレンス・暁人だ。

 なにが、どうなってるのやら。

「私が見込んだ通りの大活躍ですね。そういえば琥珀様も大変満足されておりました。これからも管理人のお仕事頑張ってください」

 釈然としないまま、ボクは部屋に戻った。

 結局何も分からないままだ。

 どうやらボクは、お金に無縁の人生を手に入れてしまったみたいだ。

 もし、これが役得なんだとしたら。

 恐っ。

 凄く恐い。

 取り敢えず、毎月きちっと家賃だけは入れる事にする。

 コンシェルジュさんが受け取らなかったどうしよう・・・



 ♠



 パシャ、パシャ・・・


 と、いう水音を聴いて、ボクは目覚めた。


 パシャ、パシャ・・・


 まただ。

 何の音だろう?

 少しだけ開いた窓から気持ちの良い夜風が入って来てる。

「ミーたん?」

 ヤバい!!

 もしかしたらミーたんがプールに落ちたのかも知れない。

 ボクはベッドから飛び降りて、ベランダから裏に回った。

「ミーたん!!」

 プールに向かって声を掛けた。

「ほぇ?」

 そこには背中に甲羅を背負った全裸の少女がいた。



 ♠

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