第4話 ある日の仕事帰り。
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近所のスーパーで買い物をした時の事だ。
「ローレンス様から、お代は頂けません」
と、レジ打ちの人に言われた。
「へ?」
「ですから、ローレンス様から」
なんで、この人が、その名前を知ってるの?
ボクの背中を、
そわぞわぞわ~、
と、冷や汗が流れ落ちた。
ボクは逃げるように料金を払って、その場を離れた。
別の日。
タクシーに乗ったボクは、料金メーターが回ってない事に気づいてドライバーさんに声を掛けた。
「ローレンス様に御乗車頂き光栄です」
と、にっこり笑った。
その顔がトカゲの様に見えたボクは、すぐさま車を降りた。
バスに乗った、バス代もタダ。
電車に乗ったら切符代もタダ。
これはさすがに無いだろうと、飛行機のチケットをネットで買ったら、搭乗口で返金された。
「ローレンス様にお支払頂く訳には参りません」
ニッコリ微笑んだ彼女の眼には、瞳が三つ入ってた。
ボクはマンションに戻ってコンシェルジュさんに声を掛けた。
「あら? どうなさいましたローレンス様」
「やめて」
ボクは、言った。
「そのローレンスってのやめて」
「はい。桐生様」
今日のコンシェルジュさんは両目とも真っ黒で、髪の毛が真ん中から赤と青に分かれてる。
「なんで皆、ボクの事をローレンスって呼ぶの?」
「それは貴男がローレンス様だからですよ」
「いやいや、ボクは桐生暁人ですって」
「桐生・ローレンス・暁人様ですよね」
ちがう、ちがう。
ボクは首を左右にブンブン振って否定した。
「でも、これ」
どこからともなく契約書を取り出した。
マジシャンですか、あなたは。
で、机の上に広げて見せた。
署名されたサインには、
「桐生・ローレンス・暁人]
と、ボクの筆跡で記されてあった。
「えええええ」
「どうなさいました?」
免許証を見た。
桐生・ローレンス・暁人と書いてある。
保険証も同じく桐生・ローレンス・暁人だ。
なにが、どうなってるのやら。
「私が見込んだ通りの大活躍ですね。そういえば琥珀様も大変満足されておりました。これからも管理人のお仕事頑張ってください」
釈然としないまま、ボクは部屋に戻った。
結局何も分からないままだ。
どうやらボクは、お金に無縁の人生を手に入れてしまったみたいだ。
もし、これが役得なんだとしたら。
恐っ。
凄く恐い。
取り敢えず、毎月きちっと家賃だけは入れる事にする。
コンシェルジュさんが受け取らなかったどうしよう・・・
♠
パシャ、パシャ・・・
と、いう水音を聴いて、ボクは目覚めた。
パシャ、パシャ・・・
まただ。
何の音だろう?
少しだけ開いた窓から気持ちの良い夜風が入って来てる。
「ミーたん?」
ヤバい!!
もしかしたらミーたんがプールに落ちたのかも知れない。
ボクはベッドから飛び降りて、ベランダから裏に回った。
「ミーたん!!」
プールに向かって声を掛けた。
「ほぇ?」
そこには背中に甲羅を背負った全裸の少女がいた。
♠
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