第3話 唖然としてる、ボクの耳に
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「ローレンス。速くせぬか」
と、フリッツ六世さんの声が届いた。
呼んでる。
戻らなきゃ。
「これてすか?」
ボクはテーブル上に座ってるフリッツ六世さんにラベルを見せた。
「うむ、まさしくそれだ」
指示通りに栓を抜いて、デキャンタに移し、ドールハウスに備えてあったワイングラスに注いで出した。
ママゴト遊びしてる気分だ。
「うむ。想った通りだ」
今までに見た事のない金色に輝くワインをテイスティングしたフリッツ六世さんは、満足そうに微笑んだ。
「君も飲みたまえローレンス」
「え、あ、はい。じゃあご相伴に預かって」
フルーティーな香り、酸味が強くて、渋みが少ない。
確かに魚介に合う味なのかも知れない。
「他にはないのか、このキャットフードというモノは」
「あ、はいはい。ありますよ」
「おお!! では、それも出してくれぬか」
更に?
身体小さいのに、食べるな~
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「ローレンス腹が減ったぞ」
「ローレンス風呂の用意をしろ」
「ローレンス」
「ローレンス」
「ローレンス!!」
一晩中つき合わされた。
フリッツ六世め。
赤ん坊じゃないんだから、三時間毎に食事なんて、あんとどーかしてるよ。
ボクは欠伸をかみ殺しながら悪態をついた。
寝たかと思えは、ローレンス。
食事をしたかと思えは、ローレンス。
トイレに入れば、ローレンス。
お風呂の中でも、ローレンス。
ボクは、桐生暁人だ!!
全くやんなっちゃうよ。
フリッツ六世さんが食い荒らした空き缶が8個。
ワインの空き瓶も8個。
最後には、カリカリをツマミにして飲んでた。
で、翌朝になったら消えていた。
琥珀様と一緒だ。
しーん
と、静まり返った部屋で、ミーたんが駆け回ってる。
琥珀様はどうか分かんないけど、フリッツ六世さんは他の家にも上がり込んでるじゃないかと、ボクは想う。
時々、何年かに一度の割合で、テレビタレントが言ってる小さなおじさんって、フリッツ六世さんの事なんじゃないかと想うんだよね。
ま、あくまでボクの推論だけどさ。
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