第2話 腰に手をあて、ふんぞり返って





「お~、これよ、これよ}

 と、フリッツ六世さんが怒鳴った。

 身長20センチしかないのに、どこからこんな大声を出してんだろ?

「う~む、この温水の大海を見よローレンス」

 暁人ですってば。

「かような風呂、我が国でも見た事がない」

 ボクも初めて見た時、度肝を抜かれたよ。

 25メートルプールぐらい広いお風呂って、温泉旅館とかリゾートホテルの大浴場ぐらいでしか見た事がない。

「さてローレンス。背中を流してくれんかな」

 どーやって?

 フリッツ六世さんの身長は20センチ。

 手に持って洗うのも何か変だし、そもそも失礼だと想う。

 だけどいつものナイロンタオルで洗うのは不可能だ。

 体格が違いすぎて上手く洗えないって分かってる。

 そもそも別世界の人の身体ってどーなってんの!?

 琥珀様は普通だった。

 普通に女の子だった。

 あのクソ重い鎧着てるだけに、筋肉質だったけど。

 ついでにツルツルだったっけ。

 いや、それはどうでも良い事だ。

「なにをしておるかローレンス」

「あ、いや、どーやって洗おうかな~って。アハハ」

「全く」

 そう呟いてバスルームの端っこに行ったフリッツ六世さんが、歯ブラシを持って戻って来た。

「これで洗うのだ」

 なんか普通の歯ブラシと毛先が違うな~って想ってたけど、これ小人さん用のブラシだったのか。

 これを考えた先代の管理人さんって、相当に機転の利く人だったんだな。

 ブラシの先端にちょっぴりだけボディソープを付けて、しっかりと泡立ててからフリッツ六世さんの背中を洗った。

「う~む、実に良いぞローレンス。あ、そこもそっと右だ」

 もうローレンスで良いです。

「さて、こっちも洗って貰おうかの」

 前は自分で洗おうよ。



 ♠



 あ~、嫌なもの見た。

 小さくても人間は人間なんだね。

 ちゃんと付いてた。

 比率で考えたら、かなりデカいお宝が。

 ボクに自慢したかったのか、このエロオヤジめ。

 湯上がりにビールと行きたい所だけど、昼間から飲むのもあれなんでソーマを飲みながら昼食の用意をしてた。

 さっきからボクの足を、メシ食わせ、メシ食わせと、ミーたんがネコキックしてる。

「ちょっと待ってミーたん。先にお客さんの」

「よいよい。アメリアから先に出してやりたまえ}

 ミーたんの頭を撫でながらフリッツ六世が言った。

 すっかり馴染んでる。

「しょうがないな~」

 と、エサ皿に、グルメなネコの贅沢メニューなキャットフードを置いた。

「ヌオッ、な、なんじゃこれは」

「なんじゃコレはって、キャットフードですよ」

「キャットフード!? これはキャットフードという料理なのか?」

「料理っていうか、ま~、ミーたんのゴハンですけど」

「待て,ちょっとまてローレンス」

「はい?」

「我が輩も、これにする」

「へ?」

「我が輩も、これを食すと申したのだ」

「いやでもコレ、キャットフードですよ」

「かような贅沢品、獣にのみ喰わせるなど罷り成らん。まずは我が輩が味見をする」


 えええええ~・・・


 ボクは食器棚からクリスタル製の豪華な小皿を取り出して、その上にグルメなネコの贅沢メニューなキャットフードを、なんとか一品料理に見えるように盛り付けた。

「う~ん、この滑らかな舌触り」

 ムースタイプだし。

「この野趣溢れる魚介の香りの素晴らしさはどうだ」

 マグロですから。

「うむ決まった。この料理にはコルヴォディスカス2500年モノのゴールドが合う。持って参れ」

「コルヴォディスカスのゴールド? コルヴォディスカスのゴールドってなんですか」

「ワインに決まっておろう」

「あ、はいはい」

 ワインに決まっておろうって、コルヴォディスカスなんてしらないし。

 そもそも2500年でいつだよ。

 って、あった。

 って、なんでボク、この文字が読めるの?

 ワインの瓶を縦に見ても、横に見ても、全く知らない文字なのに、何故か読めちゃう。

 怖い、怖い、怖い。

 なにこれ、なにが起きてんの。



 ♠



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